第675話 腹の探り合い
アルバートが戻ってきて、次はヒューバートが戻って着替える。
その時だった。
「姫様!?」
ソフィーが目を見開いて走ってくる。
「ソフィー」
「何故姫様がここに……!!」
ソフィーがヒューバートの服の汚れを目にし、眉を潜めてヒューバートを睨んだ。
あ、これヤバい。
「ヒューバートがちょっと手入れをしてくれたのよ」
「………手入れ、ですか?」
今度は訝しげに私を見てくる。
最近本当に遠慮ないよね。
いいけど。
親しみやすいし。
「そう。昨日の今日で変化はないか見てて、花が折り重なっているところがあったから直そうとしたんだけど、ヒューバートがダメだって言ってやってくれたのよ」
「………その服装で花壇に入ろうとしては、従者として止めない方が可笑しいですよ……」
今度は呆れたような顔をされた。
………上手く誤魔化せたかな?
「お茶会で、私が気に入らないからって花壇を荒らされるかもしれない。ってローズとも話してたからね。気になっちゃって」
「そう、ですか。何もなかったですよ?」
いつもの表情に戻って応えるソフィー。
内心はホッとしているのかな?
究極精霊にバラされるかもしれないから、こっちも口止めしておきますよ。
「精霊侍女と使用人が最後まで片付けてくれたからね。報告がないって事は大丈夫だったのは分かってるよ」
笑って言うと、ソフィーも微笑む。
………うん。
顔に出ない侍女。
さすがだね。
「でも、夜中にこっそりと侵入してやられているかもしれないじゃない?」
「………王宮に侵入、ですか……」
「出来ないとは限らないじゃない。サンチェス国の影もいっぱい入っているだろうし?」
茶化して言えば苦笑される。
「その場合、朝一番に王宮内巡回騎士が騒ぎ出すでしょう」
「あ、それもそうね」
今気付いた、という顔をすれば、仕方ないですね…といった顔をされる。
「でも気付かなかったし、やっぱり自分の目で見て納得するのと、見に行ってもらって報告だけ受けるのとは、全く別物じゃない?」
「お気持ちは分かりますが……」
「………ソフィー、今日はやけに渋るね?」
「え……」
「私の庭なんだし、昨日も来たから今日は来ないって理由もないし、いつ来てもいいでしょう?」
キョトンとソフィーを見れば、ハッとした顔をされ、更に気まずそうな顔をされる。
「そうですね…いえ、そうでした。いつ来ても咎められるはずもない、姫様の庭ですものね。お茶会での雰囲気を引きずってしまっておりました…申し訳ございません…」
「ああ、確かにソフィー達を緊張感たっぷりにしてしまってたものね。昨日の緊張感を引きずってしまっても無理はないわね。大人しく部屋に帰るわ」
「い、いえ! わたくしが神経質になりすぎたのです。アマリリスにお茶の準備をさせましょう」
「そう? じゃあお願いね?」
「はい」
ソフィーは笑って礼をし、チラッとヒューバートを見る。
ヒューバートもソフィーを見て、少し頷いて私を見てくる。
踵を返して立ち去っていくソフィー。
いつも通りに見える。
「………さすがソフィー。腹の内を読ませない。ヒューバートから聞いてなかったら騙されてたわね…」
「ソフィア様もさすがですよ。俺もソフィア様は普段通りに見えました」
「なら良かった」
私はやり取りの間ずっと黙っていたアルバートを見た。
「アルバート、珍しく悟らせなかったんじゃない?」
「ホントか!?」
「今ので台無しだけど」
目を輝かせて私を見てきたアルバートは得意げだった。
「口を挟んだらボロが出るから黙ってろ、ってフィーアに毎日言われて特訓した」
「「………特訓……」」
その光景を浮かべてしまう。
「………え、それって鏡の前でポーカーフェイスの練習をしてたって事…?」
「ポー……? えっと…いつもの表情を作れるように練習した。出来なかったらフィーアに叩かれる…」
「………叩かれるんだ……」
「ここら辺コブになってんだ」
髪を掻き上げて見せてくれる。
確かにコブが出来ていた。
「………何回叩かれたのよ…」
「………100……200……?」
「「………」」
アマリリスがお茶を持ってくるまで、私とヒューバートは呆れた顔でアルバートを見ていたのだった。




