第673話 結論ではなく
一通りの事情をヒューバートから聞いた。
おそらく花が消えたのも、土が甦ったのも、花がまた咲き誇ったのも、全て私の精霊がやってくれたのだ。
そして元通りになったから、ソフィーもヒューバートも口を噤んでいた。
ソフィーは独断で犯人捜しをしようとしているのだろう。
ヒューバートの仕事を邪魔しないよう、仕事に戻るようにと突き放した言い方になったのだ。
気遣いが空回り、ヒューバートとの溝が出来ちゃったのか…
これはある意味私のせいかな…
「事情は分かったわ。………1度庭園に行ってみないとかしらね」
「え……」
ソファーから立ち上がると、フィーアが上着を着せてくれる。
「見た目一緒でも、何らかの痕跡が残っているかもでしょ」
「しかし、完全に土や花が甦っているのですよ!?」
スタスタと扉へ向かっていると慌ててヒューバートが追いかけてくる。
本日の私の護衛であるアルバートも慌ててついてくる。
「甘いわねヒューバート」
「え……」
「何故花が枯れているから、花壇の中だけの異変だと思っているの?」
首を傾げるアルバートは無視してヒューバートを見上げる。
「花壇の中の花や土を精霊が直してくれたからって、ただそれだけでしょう? 花壇の周りにも異変があるかもしれないし、そうなった原因がそこら辺に捨てられてたら?」
「………ぁ……」
「ソフィーの役に立つこと、あるかもよ?」
フッと笑って見せると、ヒューバートの表情が変わった。
「勘違いしないで下さいソフィア様。私の役目はソフィア様の役に立つことであって――」
「いいじゃない別に」
「え……」
「私のためであり、ソフィーの為でもある。無理に私だけのために働かなくていいよ。確かにヒューバートは私の騎士だけど、ソフィーの婚約者でもあるでしょ」
「………そう、ですが……」
視線を外すヒューバートにため息をつく。
どうしてこう、不器用なんだろう。
………私に言われたくないだろうけれど。
「ヒューバートは私専属の騎士だから、ソフィーより私優先。っていうか私以外の選択肢は存在しないでしょうね」
「はい」
うわぁ……即答……
騎士の鑑だねぇ…
「でも私の所にいないときは、ソフィー優先でいいじゃない」
「………ソフィア様……」
「私のせいで従者達の関係がギクシャクしてるなんて、いい迷惑よ」
キッパリ言うと、ヒューバートだけでなく、アルバートまで顔をそらすではないか。
………確かにアルバートにも、迷惑かけられっぱなしだな…
通路を突っ切って庭園へと出た。
「アルバートは向こうの端から。ヒューバートはこちらの端から。花壇の周りに不審な物がないか探して」
「「はい」」
アルバートが走って行き、ヒューバートがその場にしゃがみ込んでくまなく探し始めた。
「………ねぇヒューバート」
「なんでしょう」
「ソフィーと、ちゃんと話し合った方がいい」
ハッと私を見上げてくる。
そんな彼に私は微笑む。
「ソフィーもヒューバートも、言葉が足りないと思う」
これも私に言われたくないだろうなぁ……
「………言葉……」
「2人とも説明なしに結論だけ言っている節があるのよね。仕事柄当然だけれど、過程の説明がないのよ」
「………そう、ですね……」
昨夜の会話を思い出しているのか、ヒューバートは視線を花壇に向けた。
「ソフィア様に言われるほどですからね……」
「ちょ!? どういう意味!?」
私が思わず声を上げると、ヒューバートが少し笑って捜索を再開した。
むぅっと頬を膨らませながら、私も会場だった所を歩いて回った。




