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第672話 主の役割




空気が重い。

そう感じたのは間違いではないはずだ。

いつもと同じ部屋なのに。

ラファエルを送り出して、私は見渡した。


「………」


今日、見た限りではヒューバートとソフィーが一言も話していない。


「では姫様。わたくしは仕事に行ってまいります」

「うん。頑張って」


ソフィーが頭を下げて部屋を出て行った。

パタンと扉が閉まり、暫くしてゆっくりとヒューバートを見た。

彼はいつも通り視線を一点に向け、微動だにしていない。

昨日の狼狽えは微塵もない。

騎士モードだ。


「ねぇヒューバート」

「はい」

「………なんかあったの?」

「なにも」


表情を変えずに短い言葉で話を切られる。

………なるほど?

私には関係ないこと、ね。


「ソフィーと何かあったんでしょ」

「何もありません」


………ぉぉぅ……

取り付く島もない。

何もないはずがない。

ソフィーはいつもヒューバートの方に視線を向けるか、話しかけるか。

いずれかをして出て行く。

そしてヒューバートもそれに応える。

それがヒューバートからは先程なかった。

ソフィーがヒューバートを見たのにも関わらず、ヒューバートは顔を向けるどころか、視線さえ向けなかった。

何かあったとしか思えない。


「………ヒューバート」

「はい」

「私は、精霊に情報を聞くことが出来るのよ?」


それまで外されていた視線が私に向けられる。


「………」

「自分の口から言った方がいいと思わない?」

「脅しですか」

「ええ」


眉を顰めたヒューバートに、私は表情を変えずに即答した。


「関係ない事までソフィア様が気を揉む必要はございません」

「関係ない? そんなわけないでしょ。私の従者の事よ」

「………」

「従者がいつも通りに動けないなら、それは私にとってよくないことでしょう」


自分の従者がいつも通りに、スムーズに動けるようにするのが主である私の役割であり、完璧な仕事が出来る従者がいてこそ私はいつも通りに出来るのだ。

それは切っても切り離せない関係。


「………私はいつも通りです」

「そうね。知らない人から見ればいつも通りね」

「………」


スッとヒューバートが視線を下げた。


「………少し意見の食い違いを感じただけです。大したことではないので」


食い違い……

ただの痴話喧嘩ならいいのだけれど…

それなら私の口出すことではないから。

けれど、今はそうじゃない気がするんだよね。


「………ヒューバート、1から説明してくれる?」


ソファーに座りながら、説明を求めた。

一瞬嫌な顔をしたヒューバートは、暫く沈黙し、私の前に跪いた。

………何で?


「………出来れば、私から聞いたとは言わないで欲しいのですが」


………ソフィーとヒューバートの喧嘩の件を、他の誰に聞いた事にすればいいのか疑問なんだけど……

それは口にせずに、ヒューバートの説明を静かに聞いた。


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