第669話 そこにも
「ただいま。そしてソフィアお疲れ様」
「おかえりラファエル。ラファエルもお疲れ様」
夜になってラファエルが戻ってきた。
そしてソファーに座っていた私を抱きしめてくる。
「え……」
帰ってからすぐに抱きしめられるなんて…
「………ラファエル、なんかあった……?」
「ん~……俺のソフィアが人気者だから、妬けた」
………女だらけのお茶会でしたが……?
「みんなご機嫌取りの為だよ。私自身には興味ない」
「そんな事ないよ。何度も魅力的だって言ってるでしょ」
真剣な顔で見下ろされ、私は口を噤んだ。
カッと顔が熱くなっていく。
ラファエルはいつも私をそうやって褒めてくれる。
一般的に平凡な私のことを、容姿を含めて最高ランクにしている。
「ソフィア、返事は?」
「へぁ!?」
へ、返事!?
返事って、なんの!?
視線を彷徨わせていると、ラファエルが視界に入るように身を屈めてくる。
「………いい加減、ソフィアは自分の美しさに気付くべきだと思うんだけどなぁ?」
にっこり笑って顔を近づけてこないで!!
「う、美しさ……?」
「クラーク家の令嬢に言われたんでしょ? ソフィアは“聡明で美しい”、とね」
なんで知ってるの!?
誰が報告したの!?
………はっ!!
まさか、と思ってラファエルをガン見する。
「そ、それでお茶会に乱入してきたの!?」
「乱入とは人聞きが悪い。“休憩”に行ったんだよ」
笑顔が嘘くさいっ!!
「で?」
「え……」
「ちょっとは心に刻んでくれたのかな?」
少しずつ後ずさる度に、ラファエルも同じだけ近づいてくる。
「な、にを……?」
「………はぁ……だから、自分が美しい部類に入るって事をだよ」
「………」
何度も瞬きをしてしまう。
一体彼は何を言っているのだろうか。
「それを分かっていたら、少しは周りを警戒するかと思ってね」
「警戒……」
「警戒してたら、あんな令嬢達に愛想を振りまかないでしょ?」
「………」
結局そこに戻るのか……
ラファエルにとっては、私が笑みを他人に向けるのも我慢ならないらしい。
「………だから、令嬢相手なのに……」
「周りを騎士で囲まれてたんですけど?」
またニッコリと笑みを向けられる。
………そっちかー!!
「そして本来侍女だけで配膳するはずのお茶会で、使用人も加わっていたんだけどな」
「ソウデスネ……」
確かに男も大勢いましたね!!
「俺が参加できないのに、他の男が参加できているのが、許せると思う?」
「でも、参加できたよね……?」
「俺は休憩中に様子見をしに行っただけだよ。あれは参加とは言えない」
「そう、ね……」
「ソフィアは凄く魅力的なんだから、愛想笑いを常にしといてよ。あんな楽しそうな顔を他の人に見せないで」
クイッと顎を取られ、私はキュッと目を閉じてしまう。
唇に柔らかいものが触れた。
「………暫く警戒しておいてね。――学園に戻っても、ね」
「え……」
解放された後に小声で呟かれた言葉に、私は意味が分からずラファエルを見たけれど、ラファエルは私を抱き上げて寝室へと向かった。
言葉の意味は教えてくれなかった。




