第668話 ヘタレのまま
ばふんっとベッドに倒れる。
「姫様……」
侍女に苦言を言われるのにも付き合っていられないかも…
アレから囲まれ続けて、説明し続けて、身も心もすっごく疲れた……
………そういえば、サンチェス国で開いてたお茶会は、こじんまりした…それこそ仲良かったローズと少しの友人とぐらいとしかなかったな……
そういう集まりはメインがお兄様とレオナルドだったし、王女の私が開くお茶会には都合のいい理由を付けて断られてた。
だから、私の招待状であんなにも人が集まったのは初めてだったな…
嬉しくもあり、気疲れもあり、充実、って言えばいいかは分からないけれど、満足している自分がいる。
まぁ、大半が社交辞令だったけれど。
「………ぁ~……そういえば、マーガレット嬢も婚約適齢期過ぎてからの婚約だったんだね……」
「そうですね。驚きました」
「ヒューバートが騎士になった後に探した、と言っていたから、初めて会ったときは婚約したてだったのかしら?」
「そうでしょうね」
ソフィーに同意され、私は息を吐いた。
「………ぁぁ、思い出した」
私はベッドから降りて、隣室に向かった。
そして目が合ったヒューバートにニッコリと微笑んだ。
ビクッと怯える彼。
ダラダラと流れる冷や汗が凄い。
「………ヒューバート……ソフィーを助けに動いたのは褒めてあげます。けれど、その後が残念すぎるんですけど……」
「………すみません……」
ションボリと肩を落とす彼は珍しいけれど…
ヘタレイケメンが本当に残念すぎる…
ある程度放置していたけれど、これ、大丈夫かな……
「元婚約者であるガーネット・クラーク嬢とは、本当に面識がなかったの?」
「………はい……」
「マーガレット嬢とスティーヴン殿は幼馴染みなのに?」
それって矛盾してない?
「………お恥ずかしい話ですが、私はずっと剣が楽しく、剣で生きていきたいと思っておりまして…」
「………」
「学園でも空いた時間には剣を振っていましたし、学園に通っていないときも家で剣を振ってました…」
………幼い頃から剣を振り、学園に通うようになってからも剣しか見てなかった、と。
「逆にマーガレット嬢は幼い頃から社交を積極的に行っていた、と?」
「はい…」
成る程……
まぁ、兄と妹がベッタリといつも一緒っていう先入観は捨てた方がいいわね。
「どうして絵姿さえ見てなかったの? 見ていればすぐに分かったはずでしょう?」
「………ぅ……」
視線を彷徨わせ始めるヒューバート。
話すまで待っていると、怖ず怖ずとヒューバートは口を開いた。
「………じょ、女性が……苦手で……見るのも………」
ソフィーを思わず見れば、ソフィーも私を見ていた。
心が1つになった気がする。
『………なんだこのヘタレは…』
………と。
「………ん? 見るのもダメだった貴方が何故ソフィーに惚れたの?」
「!?」
途端にカァッと顔が赤くなったヒューバート。
あ、ごめん。
まだ慣れてないんだ?
「私は普通に見れてたわよね?」
「そ、それは仕える主として! 主に邪な感情や、ましてや苦手感情など持っていては、騎士になれないでしょう!?」
「それはそうね」
その言い分には納得できる。
………でも女性が苦手な男が、仕事とはいえ、普通に振る舞えるとは思えないけど…
普段、騎士モードなら誰よりも騎士らしく見えるから、あながち間違ってもいないのだろう。
「………とすると…私の顔に慣れたから、ソフィーの事も抵抗なく見られた、ってことかしら。そして惹かれた、と」
「~~~~~~~っ!」
耳まで真っ赤になった。
「今までまともに女性を見ることも出来なかったのに、私に見慣れたからソフィーも見られて、そしてソフィーの可愛さに心を奪われ、そんな状態になったこともなかったヒューバートは、想いも伝えることも出来ないままズルズルと過ごしていた、と」
「そ、ソフィア様!! 勘弁して下さいっ!!」
可哀想なぐらいに真っ赤になって、涙目で訴えられた。
「事実確認してただけなのに」
「そ、それでも! ソフィー殿の前で言わないで下さいっ!!」
ソフィーを見られないのか、私だけを見て訴えてくるのはいいんだけれどね?
ソフィーはソフィーで顔を背けて、我関せず感出しているけれども。
「結婚するのにそんなのでやっていけるの?」
「けっ……!?」
あ……ヒューバートがオーバーヒートしてしまった。
まるで頭から湯気が出ているようだ。
「回収していきます」
無表情で壁際に立っていたオーフェスがヒューバートの腕を掴んで出て行った。
………うん、事実確認でもヒューバートはソフィーの件になると、途端にポンコツになるのは変わらないらしい。
いつになったら普通になるんだか…
私は苦笑しながらお茶を願ったのだった。




