第666話 王族主催茶会⑥
「みんな楽しんでくれているみたいだね」
突然後ろから知った声がして、ビクッと飛び跳ねてしまった。
そんな私の状態を視界には入れられない令嬢達と一部の夫人達は、色めき立っている。
冷静な対応が出来る夫人達はすぐさま礼をした。
マーガレット嬢も礼をしている。
「頑張って準備した甲斐があったね。ソフィア」
腰を抱かれ、私は恐る恐る見上げるようにして顔を後ろへ向けた。
………ラフな格好のラファエル様がいらっしゃいましたとも。
何故いるの…!?
参加しないって言ってたよね!?
なんて叫ぶことなどできない。
「ラファエル様! お会い出来て嬉しいですわ! ですが、お仕事は……」
嬉しい、けれど心配。
そんな表情をすれば、ラファエルが甘い顔を返してくる。
うっ……!!
その表情はここではやめてぇぇ!!
「仕事が一段落ついてね。休憩しようとしてソフィアがお茶会を開いているのを思い出して、わざわざ侍女に用意させるより、こちらに来た方が色々既に揃ってるなと思って」
にっこり笑顔ですがね…
絶対確信犯ですよね。
貴方、自分でいつもお茶用意して休憩してるって聞いてますよ…?
様子見に来た、ではなく、やっぱりお茶会に来たいから来ましたよね?
ラファエルの後ろにいるルイスの目が死んでるから。
知らない人が見たら無表情で付き従っているように見るだろうけれど、私にはルイスの内心が読めてしまう……
「楽しんでいるところを邪魔して申し訳ない。続きを楽しんで」
にっこり笑ったままラファエルは私を連れ、1つのお茶と甘味を侍女と使用人に用意してもらい、近くの机に向かった。
そこにはマーガレット嬢達がいる、私が先程までいた所だった。
「邪魔してもいいかな?」
「ど、どうぞ!!」
返事をしたのは1人の令嬢。
「ありがとう」
ラファエルが笑顔で礼を言うと、令嬢の顔が真っ赤に染まった。
「ガルシア公爵夫人にマーガレット嬢、久しぶりだね」
「お久しぶりでございます」
「ラファエル様がお変わりないことに、安心致しました」
マーガレット嬢と夫人は笑ってラファエルに応える。
「ガルシア公爵の報告書はいつ見ても丁寧で、とても読みやすいよ。問題点も良く纏められていて動きやすいよ」
「夫が聞けば喜びのあまり倒れそうですわね」
「あ、じゃあ言わないでもらおうか。まだまだ助けてもらわないと困るから」
「まぁ…おほほっ」
楽しそうに笑う夫人に、私も微笑む。
周りから刺さるような視線が来るけれど、ラファエルが隣にいるだけで心強い。
本当は1人で対応しなければいけないのに、甘えているのは分かっているけれど、頼ってしまう。
「ソフィアはちゃんともてなせてる?」
「まぁ……ラファエル様……」
皆に笑顔で聞くラファエルの腕に手を当てる。
ここで出来てないと言われればヘコんでしまう…
「ええ。ソフィア様はきちんとなさっていますよ。こんな他国の貴族を集めてお茶会など、緊張してしまい失敗してしまう可能性もありました。けれどソフィア様は落ち着いて、周りを見て、色々なテーブルを回り、皆様とお話ししております。素晴らしいですわ」
エリザベス夫人に褒められ、私の頬が熱くなっていく。
「ありがとうございます。わたくし、ホッとしました。失礼をしてしまっていないか不安でしたもの…」
「胸を張ってくださいませ。ご立派ですわ」
夫人は穏やかな顔を向けてくれる。
私は密かに胸をなで下ろした。
「それは良かった。ソフィア、ガルシア公爵夫人に褒められるなんて凄いことなんだよ?」
「そうなのですか?」
ラファエルが頷いて、嬉しそうな顔で私を見下ろしている。
「うん。夫人はランドルフ国の貴族の中でも模範的と言える方だからね」
「ラファエル様、煽ててくださっても何もお返しできないですわよ?」
おほほと笑う夫人に、ラファエルは微笑み返す。
「大丈夫だよ。ガルシア公爵に返してもらうから」
冗談めかして言うラファエルに、皆がくすくす笑う。
「………ラファエル様」
静かにルイスが後ろから声をかけてくる。
そろそろ時間らしい。
「………もうそんな時間?」
少しもお茶と甘味に手を付けられていない。
「ルイス。ラファエル様にお茶と甘味を召し上がる時間は許容して差しあげて」
「………畏まりました」
顔色変えずに私に頭を下げたルイスは傍に控えた。
「ありがとうソフィア。これでソフィアとの時間をまだ過ごせるよ」
「そ、そういうつもりで言ったのではございませんわ! ラファエル様がきちんとご休憩を取られることが大事なのですよ? お仕事もよろしいですけれど、ラファエル様のお身体が一番大事なのですわ」
「ソフィア様の言うとおりでございますよ」
「そうですわ。ラファエル様に倒れられたら困りますもの」
私の言葉に皆が同意してくれ、ラファエルは笑顔で応えた。
「じゃあ、遠慮なくお茶も甘味も、そして会話も楽しませてもらうよ」
そう言ってラファエルは、いつもの休憩時間の倍ぐらいの時間を過ごした。




