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第660話 動き出します⑨ ―M side―




「きゃぁぁぁぁぁあぁぁあ!?」


屋敷中に響き渡る声を上げてしまいました。

ですが、それ程までに衝撃的だったのです。


「お嬢様!?」


バタバタと、何事かと侍女達がわたくしの部屋に集まってきてしまいました。

いいえ、これはむしろチャンスです!


「大変なことになりましたわ!!」

「どうなさったのですか!?」


説明しようとして口を開くと、声を出す前にもう1人部屋に入ってくるのが見えました。


「マーガレット、なんですか。はしたなく声を上げて」

「お母様!」


わたくしの部屋に入ってきたのは、お母様でした。

今日もビシッと決まってますわ!

髪は全て結い上げ、目はキリッとつり目で鼻筋は通っているし、口元に引いている紅は真っ赤で美しさを引き立てています!

真っ赤なドレスも、黒い扇子も、とてもよくお似合いです!!


「お母様! 聞いて下さいませ! そ、ソフィア様からのお手紙が来たのです!!」

「それは報告を受けていますから知っています」


そうですわよね!

王族からの手紙ですもの。

例え他国王女であるソフィア様であっても、ラファエル様の婚約者様ですもの。

その方から手紙が届いたとなると、お父様とお母様も気にしておかなくてはなりませんから。


「あんなはしたない声を上げる理由にはなりません」

「理由にはなりますわ!! だって、王宮の、それもソフィア様が主催なさるお茶会のご招待状なのですから!!」


バッとお母様の目の前に招待状を翳す。

気分が高揚して淑女としてはありえないことなど分かってますが、やはり実現してしまうと実感がわきます!

ソフィア様はお約束して下さいましたけれど……

社交辞令とも取れる物言いでしたから……


「や、やはりドレスを新調しなければなりませんわよね! 今から仕立屋を呼んで、それからデザインも決めなくては!」

「落ち着きなさいマーガレット」


冷静なお母様の言葉にわたくしはムッとしてしまいます。


「落ち着けませんわ! ソフィア様のお茶会ですわよ!? わたくし今まで1度も王族主催のお茶会なんて出たことありませんもの!!」

「王妃様も王子妃様も殿下の婚約者もいらっしゃいませんでしたからね。当たり前ですが」

「お母様は昔、今は亡き王妃様主催のお茶会に出られたかもしれませんが、わたくしは初めてですから失礼にならないようにしなくては!!」


すぐに侍女に仕立屋を手配するように言おうとすれば、ベチッとお母様に額を扇子で叩かれました。

………痛いです……


「よく招待状を見なさい」


冷ややかなお母様の視線に、高揚していた気持ちが沈んでいきます。

身も心も凍り付きそうです…

渋々またソフィア様の招待状に目を通します。

読んでいき、日付を目にしました。


「………ぇ……!? 10日後ですの!?」

「気付きましたか。当たり前でしょう。この社交時期は学園の生徒も参加できるように、学園の長期休暇に定められてますのよ。必然的にソフィア王女のお茶会の日付も学園の休暇中に決まっています。まさか、一月以上先だとでも? 他の方も茶会やパーティーを計画しているのですから、それぞれの日程と被らないように調整されているのも理由ですわよ」


お母様の言葉にガックリと肩を落とす。

これではドレスは間に合いませんわ…


「それにこれはソフィア王女が初めて開催されるお茶会ですから、気軽に楽しめるよう普段着で、と記載されていますでしょう。着飾ったドレスで行ってごらんなさい。周囲の笑いものになりますわよ」

「で、ですがソフィア様は王女様ですわ。王女様主催のお茶会に普段着は……」

「この場合はそのままの意味で解釈すべきです。ドレスコードが必要なら日程も足りないことも、急ごしらえで作らなければいけないことも、全て未知なソフィア王女を軽蔑すべきことです」

「なっ!? ソフィア様をバカにしないでくださいませ!!」

「例えばの話ですわよ。今バカなのは貴女でしょう。ソフィア王女は聡明な方ではなかったのですか」


ハッとしてお母様を見上げます。


「ソフィア王女は素晴らしい方なのでしょう? でしたら、気軽に楽しみたいという言葉に嘘はないと判断します」

「………はい。申し訳ないですわ……」


そこでふとわたくしは気付きました。


「………お母様、先程チラッと見ただけで日付や服装のことまでよく分かりましたわね…」

「何を言っているの。わたくしも招待状を受け取って、先に見ていましたのよ」


………え……

わたくしは固まってしまいました。

もしかしなくても、わたくしが考えているような少人数のお茶会ではないかもしれません……

………ソフィア様……

本当に、本当に、普段着の気軽なお茶会になるのですか……?

わたくしの心の声に、勿論ソフィア様が答えてくれるはずもありませんでした…


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