第659話 動き出します⑧
カリカリと真っ白な紙に文字を書いていく。
思いつく限りの。
それも一心不乱に。
あまりに殺気立っていたのか、私の従者全員が引いている気がするけれども気にしない。
力を入れすぎたのか、ビリッという音がした。
「………ぁ」
その音に手を止めると同時に、「ひっ……!」と誰かが声を引きつらせた。
ポリポリと頬を掻き、ペンを置いた。
「このぐらいかな」
真っ白だった紙は今や私の文字で黒くなっていた。
………最後は紙が破れちゃったけど。
「出来ましたか?」
何事もなかったかのように声をかけてくるソフィーは、強者とも言えるだろう。
「出来たよ」
私はソフィーに紙を差し出す。
あ、破れたところに当たる机にペンのインクがついてる。
拭くもの…と視線を反らす前にフィーアがサッと机を拭く。
………何この子達の優秀さ…
何も言わずに動けるって侍女として大事だよね。
ソフィーは私の書いた内容に目を通し、1つ頷いた。
「わたくしが責任を持って用意致します」
「よろしく」
「フィーアをお借りしても?」
「いいよ」
ソフィーとフィーアが頭を下げて部屋を出て行く。
食事の時間はまだだからアマリリスが部屋に待機だ。
私が書いていたのは茶会に招待する貴族夫人と令嬢の名前だ。
旧国派、新国派、中立派、全ての家をまんべんなく書いたつもりだけれども…
何故殺気立つ?
と疑問に思われるかもしれないが、ランドルフ国の貴族の名前がうろ覚えだったからだ。
ルイスにばれたら冷ややかな目で見られるだろう。
「ああして書くと、ラファエルとルイスが粛清したから、中立派と新国派の貴族達が多くなっちゃった…」
「それは仕方のないことでしょう。旧国派だった者は男爵か爵位剥奪になってますから」
いつも通り表情なく、ついでに声にも感情なくオーフェスが相づちしてくる。
「………本当は学園の平民達も呼んであげたいんだけどね…」
「それはやり過ぎです。許されることではありません」
「うん」
オーフェスの言葉に私は素直に頷いた。
この貴族社会でそれをすれば、私はあっという間に地位を失うだろう。
平民を優遇する王族。
貴族を馬鹿にしている、と。
民あっての王族、それを理解する者はあまりに少数だ。
「そ、ソフィア様……」
「………何」
アルバートに声をかけられ、私は思わず半目で見てしまった。
言われる前に、何を言われるのかが大体想像つくってヤだな…
「も、もしかして……」
「アシュトン家のリリア様ならリストに入ってるわよ。当たり前じゃない」
ガーンッとショックを受けるアルバートに、全員が呆れ果てる。
何を当たり前のことにショックを受けるんだ。
私主催の茶会に公爵夫人を招待しないなどありはしない。
「お、おおお俺! 当日警護を外れ――」
「るわけないでしょうが。私の騎士と侍女は全員参加。これ強制。異議は一切受け入れない。以上」
絶望するアルバートは放って置いて…
「当日の警備態勢なのだけど」
オーフェスとヒューバートと共に、会場となる庭園の見取り図を元に話し合う。
ラファエルに王宮騎士の貸し出しもOKをもらっている。
3人でああでもない、こうでもない、と話をしているうちに時間が過ぎていった。




