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第658話 動き出します⑦




私は現在、顔色真っ青で目の前の光景を見ていた。

私のお気に入りの花畑――もとい庭園の中を行ったり来たりする人達。

予行練習として王宮にいる侍女と使用人の顔を借りる予定の精霊達。

そして顔を貸す予定の侍女と使用人も共に動き回っている。

(勿論本人達にはまだ内密です。)

………のだが…


「………全然動きが違う……」


精霊侍女と精霊使用人は、統率された動きで一糸乱れぬ完璧さ。

そして王宮侍女と使用人の使えなさ。

私の真っ青具合を分かってくれるだろうか?

ずっとやってきた仕事のはずなのに、僅か数ヶ月の精霊達の方が完璧って……可笑しいでしょ。


「………頭が痛いですわね」


ソフィーも状態は知っていたけれど、目の当たりにして更に頭痛がするのか頭を押さえている。

………まぁ、分からなくもないけれど。

もう少し使えるならば、精霊に代役など頼まなくてもよかったのに…

誰も座っていない席に躓く。

テーブルにカップをひっくり返す。

お皿を落とす。

………お茶もお菓子も乗ってないからいいようなものの…

これを貴族夫人や令嬢にやってしまった日には、最悪首が飛ぶね。

………一生懸命やっているのは認めるけどね…

お茶会の予行練習だから、と王宮侍女と使用人らに説明している以上、もう良いからと止めさせるわけにはいかず……

私はアマリリスが煎れたお茶を飲みながら、その風景を見つめていた。

私が見つめているせいでもあるかもだけど、その程度でミスるなら、到底他の者の前に出すわけにはいかない。

………人の育成って本当に難しいわね……

ソフィーでも出来かねているのだから。

王族に対して……主君に対しては礼は出来ても、掃除は出来ても、給仕に関してはダメダメね…

今は精霊達がいてくれて助かった。

ガルシア公爵家の侍女達を貸してもらおうかという案もあったけれど、ガルシア公爵家のみ贔屓にしていると思われたら困るしね。

ラファエルへの反感が強まるのはよろしくない。

まんべんなく貸し出し許可を貰おうものなら、王宮の侍女らが使えないと公言するようなもの。

それもよろしくない。

はぁ……とため息をつきながら、ラファエル特製甘味を口にする。


「~~~~っ!」


くぅ……!! と身悶えしてしまいそうになって、慌てて飲み込む。

ラファエルの甘味が美味しすぎる!!


「お口に合いましたか?」

「ええ」


アマリリスに聞かれ、私は笑顔で返した。


「ラファエル様にお伝えして下さいませ。姫様のために厨房に来られておりましたから」

「分かったわ」


予行練習をすると言えば、ラファエルがわざわざ仕事の合間で私に作ってくれたのだ。

前に食べさせてくれた1口サイズのシュークリーム。

つぅ……っとクリームがはみ出して、更に唇からもはみ出してしまい顎へと伝ってしまう。

慌ててはしたなく舌で拭ってしまい、ハッと気付いてハンカチで押さえる。

誰にも見られてなかったのは幸いだ。

ラファエルの甘味は何でも美味しい。

このシュークリームのクリームも濃厚だけれども後に引かない甘さで、いくらでも食べられる。

………さすがに食べ過ぎで寝込むようにならないようにしますけれども。


「姫様」


………おっと。

見られてないと思っていたけれど、近くにいたソフィーには気付かれたようだった。

苦笑して返すと、ソフィーも困ったように笑った。

すみませんね……

つい部屋でいるような感じでやっちゃった。


「やはり予定通りにされますか」

「そうね。仕方ないから」


ラファエルに許可ももらってるし、当日の配膳などは精霊達にしてもらうこととなった。


「ソフィー、アマリリス、フィーア」

「「「はい」」」

「ラファエルに茶会の日程をいつにするか聞くから、それが決まり次第、招待状を作るのに手を貸して」

「「「畏まりました」」」


頭を下げた3人を尻目に、私は立ち上がってその場を後にしたのだった。


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