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第655話 動き出します④ ―R side―




「バカなんですか?」

「え……」


ソフィアと嬉しい日課の時間を過ごした後、浮かれていた自覚はある。

鼻歌歌いながら仕事をしていた自覚もある。

手さえ動いていればルイスに注意されることは無かった。

………ハズだったんだ。

気持ち悪い仕事の仕方は止めろ、と言われたのは先程だ。

何をそんなに浮かれているのだと、ルイスに聞かれ、朝の至福の時間の件を説明していた。

そして、説明し終えた後に言われた言葉が、よりにもよってバカとはなんだバカとは。

一瞬固まったじゃないか。


「お前……最近容赦なくないか? 俺は王太子なんだが……」

「でしたらもっと考えて欲しいのですけれども」


チクチク突き刺さる視線と言葉攻撃、止めろ。


「俺の何処がバカなんだ」

「バカでしょう。バカでなければ阿呆なのですか?」

「は!?」


聞き捨てならないぞ。

俺は立ち上がってルイスの所に行く。


「俺はお前ほどではないが頭はいいだろう」

「仕事に関しては、ですけれど」


ルイスは座ったままため息をつく。

失礼だな。


「それ以外では――それもソフィア様が絡むと、ラファエル様は途端に思考が単純になりますから」

「………」


ジッとルイスを見下ろし、続きを促す。

ここで口を挟んでは話が進まない。

納得はしていないが、俺も学習するんでね。


「まず、今回ソフィア様が行おうとしているのは、将来ソフィア様の腰巾ちゃ――んんっ……支持する者達を増やすこと」

「………そうだな」


今絶対に腰巾着って言いそうになったな。

別名取り巻きとも言う。

まぁ、ようはソフィアの味方を増やそうということだな。


「女性を味方につけることに重きを置いています」

「ああ」

「なのにそこにラファエル様が参加される、と?」

「何か問題が?」


首を傾げると、ルイスが頭を抱えた。

理由が分からないが、バカにされ、飽きられていることは分かった。


「まず第一に、女だらけのお茶会に男が混じるということが非常識です」

「俺の家で俺の遠慮することが何処にある。お願いしたらソフィアも許可したぞ」


言った後に少し後悔した。

今まで呆れた顔を向けていたルイスが真顔になったから。


「………第二に、ソフィア様の支持者を作ろうというのに、それではラファエル様目当ての令嬢が圧倒的にソフィア様に群がります」

「いなくても同じだろう」

「その場にラファエル様がいるだけで、ラファエル様に良いように見てもらおうと、ソフィア様にいい顔をする令嬢がかなりの数増加します」

「………」


ちょっと想像して、そうかもしれないと思った。


「第三に、ソフィア様そっちのけでラファエル様に群がる令嬢も増加するでしょう」

「………」


それは嫌だと即答したい。


「俺はソフィアだけに群がって欲しいのであって、その他大勢に興味は無い」

「………ソフィア様1人でしたら、群がるとは言わないでしょう……」


ため息をつかれた。

せめて見えないようにつけよ。


「そしてかなりの確率でラファエル様はソフィア様しか見ず、ソフィア様にベッタリとくっつき、それに腹を立てた令嬢達のソフィア様へ対する負の感情が爆発し、ソフィア様が大事になさっている庭の花壇を荒らし、それに怒ったラファエル様が令嬢達を王宮から追い出し、ソフィア様の支持者を作ること叶わず終わる。という想像が容易につきますね。これが最大の問題だと思いますが?」

「………」


にっこりと笑って手に顎を乗せたルイスに見られた俺は、反論する言葉を失った。


「それらの理由から、ラファエル様がソフィア様主催の茶会に参加するのは、私としては反対しますが? それとも無理に参加してソフィア様をランドルフ国で孤立させ、サンチェス国より婚約解消されたいですか?」

「は!?」

「それはそうでしょう? あれだけソフィア様を大切になさっているサンチェス国王とレオポルド様です。そんな状態のソフィア様をずっとここに置いておくメリットがある、と? 夫人や令嬢の反感を買っている王女の案を、貴族らが受け入れるとでも? 現在は静観している貴族夫人らがソフィア様排除に向かえば、ソフィア様の安全のために国に戻せと言われるかもしれませんよ?」

「なんでそこまで話が飛躍するんだ!?」


たかが茶会だぞ!?


「ソフィア様の案を重要視している貴族は大勢いるでしょう。良くも悪くも。現在貴族はソフィア様を支持するかしないか、判断しかねている所が多い状態です。それをこの茶会の機会で見極めようと集まってくるでしょう。そんな中、ラファエル様を背後に付けながら対応するソフィア様を貴族夫人達はどう判断するとお思いですか。逆効果でしょう。男を手玉に取り、利用して大きな顔をしている王女。本当はあの案はラファエル様が提案したもので、ソフィア様は貴族に気に入られようとしてその案を出したフリをしている。そんな噂が広まればどうなりますか」

「ぅっ……」


確かに貴族は根も葉もない噂を広めるのはお得意だからな……


「案を受け入れる貴族達はいなくなり、ソフィア様の立場はなくなる。到底それを払拭するのは簡単ではないでしょう。究極精霊の件を知っているのは当主ぐらいでしょうし、ただの王女だと思われればソフィア様は軽んじられます。そうならないためにソフィア様は動いているのに、強引に貴方が参加しようと願って無理矢理頷かせて一体何をする気なのですか」


有無を言わさぬ声色で言われた俺は、ガックリと肩を落とした。

………確かにあの言い方は、ソフィアを無理矢理頷かせたようなもの…

あの時ソフィアは少し困った顔で笑ってたしな…

ってかルイスは怖いな…

まるで見てきたかのように…


「………諦めます……」

「そうして下さい」


ルイスはスッキリした顔で仕事に戻った。

それを尻目に俺は席に戻った。

長いため息をつきながら。


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