第654話 動き出します③
久しぶりに朝の日課をラファエルと行った。
私は勿論、ラファエルも嬉しそうに私のペースにあわせ、ゆっくり一緒に走ってくれた。
足が縺れて転びそうな時には、すかさず支えてくれた。
「ありがとう」
「どう致しまして」
ラファエルが優しく微笑んでくれるから、私もつられて笑う。
「やっぱりソフィアは可愛いね」
「………はぃ!?」
カッと火照っていた身体が更に熱くなる。
私今汗でべちゃべちゃのボロボロだと思うんだけれども!?
しかもドレスなんかじゃなく、例のジャージもどきですよ!?
やっぱり疑わしくなるラファエルの美的センス!!
「今日もずっとソフィアといたいなぁ」
「………お仕事、でしょ?」
「ルイスが代わってくれるよきっと」
………良い笑顔で仕事を押しつけないでよ…
「ダメだよ」
「………ダメ?」
「うっ……」
何故捨てられた子犬みたいな顔をするかな……!?
私が折れると思って…!?
………絆されかかってますけれどもね!!
「ら、ラファエルが仕事頑張ってるって思うから、私も頑張ってお茶会出来るように頑張れるんだよ?」
「無理にお茶会しなくていいよ。ソフィアが頑張ることないよ」
両手を包み込まれ、私は一瞬固まってしまう。
ラファエルがやらなくていいと言うなら…って楽な方に考えちゃうから止めて!?
「それじゃ、私がこの国の貴族にいつまで経っても認められないよ…」
「ソフィアが無理してすることじゃないでしょ」
………即答されることじゃないと思うんだけどね…
「まだ来て1年も経ってないんだから、急いで立場を確立しなくてもいいでしょ? ゆっくりでいいよ」
「………そうやって引き延ばして、なかなか認められることなく、ラファエルの隣に立てなくなっても……?」
「そ、れは……」
首を傾げながら聞くと、ラファエルが言葉に詰まった。
ある程度私のしてきた改国のことが、全ての貴族の耳に入っているはずだ。
タイミング的にはベストだと思う。
次の長期休暇では時間が経ちすぎて、人前に出ない王女だと悪印象を抱かれたら、それから好印象にしていくのは困難になってしまう。
「………ソフィアが大勢の前に姿を現すのに、女だけなんて……」
「………」
………なんかラファエルの考えが、手に取るように分かるような気がする。
「………俺もソフィアとお茶会したい…」
………ですよねー…
「それに! あんな腹黒の巣窟の中にソフィアを1人放り出すことなんて、心配で仕事が手につかないよ!!」
「………腹黒…」
貴族が全員中に何を飼っているか分からないけれども…
ラファエルがそれ言っちゃう…?
「心配ない、とハッキリとは言えないけど…」
「そうだよね!」
ち、近いっ!!
ラファエルが顔をズイッと近づけてくる。
手は未だに握られたままだ。
私の顔は今凄いことになってるはずなんだって!!
「で、でも、少なからずサンチェス国で慣れてるから大丈夫だよ」
「慣れとかそういう問題じゃないよ! ソフィアが少しでも傷つけられる可能性を俺は見逃せないよ」
ジッと見つめられ、距離も近いし、私の顔は真っ赤になっているだろう。
「じゃ、じゃあラファエルも一緒にいたら良いでしょ!?」
勢いで言ってしまい、ハッと気付いたときには遅かった。
「ホントに!? やった!」
ラファエルは嬉しそうに声を上げ、私を抱きしめてきたから、今更ダメだなんて言えなくなった。
………まぁ、ラファエルがいた方が令嬢達は喜ぶだろう…
大分嫌だけど…
女だらけの茶会に1人男性が混ざるのはどうかと思うけど、ラファエルの機嫌の方が私には大事だ。
未だに嬉しそうに笑っているラファエルに、呆れ混じりの笑みになってしまったけれど笑って、ラファエルの背に腕を回したのだった。




