第649話 視察報告
ラファエルも落ち着いたところで、お兄様とラファエルの会話が開始される。
私はそれを聞いているだけだ。
「で、視察は納得いくものだったの?」
「うん。ランドルフ国が無事でよかったよ。同盟国以前にソフィアが嫁ぐ国だし、国を立て直している最中なんだから壊れちゃダメだしね」
ガラガラとソフィーがお茶を持ってくる。
3人共が口を付け、私は頬が緩む。
「あれ? これサンチェス国のお茶?」
「はい」
お兄様がソフィーに聞き、ソフィーが頷く。
緑茶だと色で分かっていたのだけれど、お兄様はこっちのお茶と思って飲んだみたいだ。
「へぇ。こっちでもサンチェス国の新茶を飲めるのはいいね」
まだ普及があまり進んでいない新しく作られた緑茶を、お兄様が嬉しそうに飲む。
「火山は無事だったし、北の雪はそのままだった。なんか開拓されてるみたいな山…斜面、かな? の近くに地面が見えてる場所があったんだけど。結構範囲が広い円が出来てたけど、アレは? 民家に被害がなかったようだから問題ないと判断したけど…」
「ソフィアの案で作っているスキー場だよ。上から滑るんだって」
「………それ、楽しいの?」
お兄様に疑わしい目で見られた。
失礼な!
「ちゃんと楽しいわよ!」
「ってソフィアが言うから、作ってみてるし、出来たら俺もソフィアと一緒に行こうと思ってるよ」
「ふぅん?」
あまりお兄様の興味を引いてない。
出来上がったらぎゃふんと言わせてやる!
「で、その近くの剥き出しになった地面は、そこでマモノと戦ったときに出来たものだよ。目も開けられないほどの吹雪に見舞われてね。魔物の姿なんて見られなかった。その時にソフィアが精霊の力で周りを炎で覆ってくれて戦ったんだ」
「へぇ。見たかったな」
嫌だよ。
あんな状況もうこりごりだわ。
ドロドロのべちゃべちゃになったし、恥ずかしい召喚しちゃったし…
あれ、もう口に出して公言しちゃったから、呪文変えられないよねぇ…
考えるのが面倒くさくなって、数カ所変えただけの詠唱をサンチェス国でも晒したし…
もう恥ずかしいと思わず割り切ろう…
全部で9つの呪文を同じように作ってやる!
何を言われようが気にしない!!
もうやらかした後なのだから、開き直っちゃえ!
「明日はラファエル殿の案である乗り物を見せてもらいに行く予定だよ」
「じゃあ、ガイアス殿の働きぶりもついでに見てきてよ」
「ああ、そっちに回したの?」
「うん。肉体労働でへろへろになってるかもね」
愉快そうに笑うラファエルとお兄様。
人の苦しんでいるところを笑うのはどうかと思うけれども、ガイアス・マジュの自業自得だから同情はしないけど。
「確か国境から東の公爵領までは出来てるんだっけ?」
「温泉街に到達するのはあと数日のうちだと思うよ? それまで残っておく?」
「そうするよ。親父にはソフィアが完全復活するまで見届けろと言われてるしね」
………それは私の回復まで見張るということですね…
は、早く治そう…
急かされているような気もするけれど、このままじゃ何も出来ない。
それに早く回復しないと、長期休暇中に1度はお茶会を開かなければいけないという課題をクリアできない。
私に必要なのはこの国の貴族との繋がりと、その上に立つ者の立場確立。
貴族よりも上なのだと、きちんと知らしめなければいけない。
ランドルフ国を、ラファエルを任せていいと、隣に立つのに相応しいと思わせられなければ、私の居場所は今後ない。
侍女の教育なども重要だ。
慎重に給仕の侍女を選ばなければいけないのに、肝心な私がこれなのだから。
難しい顔をしていたのか、グリグリとラファエルに眉間を押される。
「ソフィア、何考えているのか知らないけど、大人しく身体治さないとどうにも出来ないよ」
考えは読まれていると思うのだけど…
それでも追求しないラファエルに苦笑し、大人しく横になった。
お茶を飲み干した後に。
横になると2人は微笑んで私を見ているので、寝られないと思ったけれど、わりとあっさり私は意識を手放したのだった。




