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第648話 考えが及ばない




「ランドルフ国はマジュ国被害はなかったみたいだね」


いきなり寝室にお兄様が入ってきたと思えば、ベッドに腰掛けてそう言った。

………いや、それ既に報告あったはずじゃ…

唖然とお兄様を見ていると、クスリと笑われる。


「実際に見てみないと分からないじゃないか。いくらラファエル殿が大丈夫って言ってもさ」

「そこは信用してあげて下さいよ」


同盟国であるサンチェス国に行ってまで、故意に虚偽報告する必要もないでしょう。


「親父の命令なんだ。ちゃんと俺の目で見たものを報告しないとね。あそこはどうだった、あっちはってね」

「なるほど…全部問題なかった、ではダメなのね。纏めずに詳細を語らなければ」

「当たり前でしょ。国王に虚偽報告なんてしたら一発で俺は廃嫡だよ。継ぐ者もいないのに。――ああ、ソフィアを呼び戻して初の女王に――」

「絶対に嫌です無理です無謀です国滅びます」


何を言い出すんだお兄様は!!

怖いこと言い出さないでよ!!


「そんな事になったらラファエルと結婚できなくなるじゃない!! 私はラファエルと結婚って決まってるんだから!」

「じゃあラファエル殿を婿に」

「ランドルフ国の跡継ぎがいないでしょぉ!?」

「何言ってるのルイス殿がいるじゃないか。影武者から本物になるだけでしょ。更にローズとの間に子供設ければ解決だよ」


あ、ホントだ。

ランドルフ国には王家の血が残ってるわ。

………ん?


「いやいやいやいや!! そんな事出来るわけないでしょう!?」

「なんで?」

「なんでって……」


思わず言葉が詰まってしまった。

その問いに返せる言葉が浮かばなかったから。


「――はっ!! っていうかお兄様がそもそも廃嫡されるようなことをしなければいいだけじゃない!!」

「あははっ」


ニヤニヤしているお兄様を見てハッとした。

からかわれていることに漸く気づいた私は、顔を真っ赤にして怒る。


「でも実際、ランドルフ国に大きな被害がなくてよかったよ。寒いところを好むマモノって聞いてたからさ、火山は無事だと思ってたけど」


お兄様の言葉にまたハッとする。

そうだ…

火山に何かあれば、最悪ランドルフ国が熱湯の海に沈むことになる…

それに気付かなかった私は落ち込んでしまう。

目の前のことでいっぱいで、そこまで頭が回らなかった。


「す、すぐにラファエルに知らせなきゃっ!!」

「落ち着いてソフィア。それはもう俺が確認してきたし、今の今まで何もなかったんだから、心配ないよ」


飛び起きて走って行く勢いだったのを、お兄様に肩を押さえられて止められた。

………そう、だよね…

お兄様が確認しに行ってくれた後だった。

大人しくベッドに戻る。


「こんな調子じゃ、ソフィアはまだ女王になれないね」

「な、なれなくていいから!! 私はラファエルの奥さんになるの! 王太子妃になって王妃になるの! 国のトップになんか立てないわ!!」

「そうかなぁ?」

「そうです!!」


ギャーギャー騒いでいると、なんだか部屋がひんやりしているのに気付いた。

ぶるっと身震いして腕で自分を抱いた。


「殺気で部屋の温度が下がってるよラファエル殿」


仕事で出てたラファエルが戻ってきていた。

それはそれは良い笑顔で入り口に立っている。


「レオポルド殿、今すぐソフィアの身体から手を離そうか?」

「はいはい」


お兄様は私を押さえていた手を離す。

それでラファエルが普通に戻る。

ラファエルの嫉妬はお兄様まで及ぶのはちょっとどうかと思うけど…

ギュッとお兄様の前でも遠慮なく抱きしめてくれるその温もりを、私は迷惑だとは思わない。


「ソフィア、ただいま」

「おかえりラファエル」


スリッとすり寄ると、ラファエルは嬉しそうに微笑んだ。


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