第647話 何度も言われてる
う~んと私は唸っていた。
ベッドに寝たまま。
まだ体力が回復していないというのに、路面電車、線路の出来見たさにラファエルと医者に無理を言い、ついて行ったのがいけなかったのだろう。
少し熱が出てしまっていた。
………私はこんなに病弱のはずでは…
精霊の力というのは、それ程大きなものだということを改めて知る。
「ソフィア、大丈夫?」
こくんと頷く。
ラファエルがベッド脇に座って覗き込んでくる。
「………そういえば、お兄様は…」
「ぁぁ、ランドルフ国を少し回ってきていいかって出かけたよ」
「………ランドルフ国を…?」
首を傾げてしまう。
祭りの様子を見たかったのは分かるけど、なんでランドルフ国を回るのだろう…?
お父様に何か言われてるのかな…?
「レオポルド殿のことはいいから。ソフィアの回復が先だよ」
心配そうに見てくるラファエルに申し訳ないと思う。
私が我が儘を言ったせいだ。
「………ごめんなさい……」
「ん?」
「………無理言って連れて行ってもらったのに……倒れちゃって……」
私が倒れたのは帰りに乗った路面電車の中。
私の体調を民には知られないよう、見えなくなるまで我慢した結果、ラファエルに倒れ込むように意識を手放したらしい。
ハッと目を開くともう寝室に横たわっていた。
しょんぼりする私の頭をラファエルが優しく撫でてくれる。
「気にすることないよ。俺の案の出来具合をソフィアに見てもらえて嬉しいよ」
「………」
怒ることなく言ってくれるラファエルに、罪悪感が抑えきれない。
もう我が儘は言わないようにしよう…
元気になったらラファエルはきっと、強請らなくても連れて行ってくれるから…
「ソフィア」
「………ぇ……ぁ、何?」
ハッとしてラファエルを改めてみると、何故か眉間にシワが寄っていた。
「………ど、したの……?」
目を見開いてラファエルを見る。
今の間に何があったのだろうか…
「………いや…気のせいかな?」
「何が?」
「ソフィアがなんか我慢する決意をした気がする」
だからエスパーか!
ビクッとしてしまったじゃないか!!
それを見たラファエルがにっこりと微笑んだ。
怖いわよ!!
「俺はソフィアの我が儘、聞けないことならキッパリと断るでしょ」
「………ぇ……ぅん…」
言われた意味が分からなくて曖昧に頷く。
あ、いや、言葉は分かるよ?
でも、ラファエルの言いたいことが分からない。
「だから今回の件は、ソフィアのせいじゃないってこと。連れ出した俺にも非がある」
「え!? ラファエルは反対してたでしょ!?」
「1度はね。でも結局医師を説得して一緒に出かけると決めたのは俺だよ」
「でも……」
私の唇をラファエルが人差し指で押さえた。
パチパチと瞬きを何度もしてしまう。
「これからもやりたいことを言っていい。ダメだと思ったら言う。俺はソフィアのやりたいことを制限はするかもだけど、禁止にすることはないよ」
そっとラファエルの指が離れて行く。
「だから、我慢しないで。ちゃんと口に出して。分かった?」
「で――」
「でも、は禁止」
「ラファエル…」
「ねぇソフィア。俺とソフィアは婚約者でしょ。未来の夫婦」
それは間違いない。
こくんと頷く。
「ソフィアの考える婚約者とか夫婦って、一方が我慢するものなの?」
ラファエルの言わんとしていることが分かり、ハッとする。
「俺はいっぱいソフィアに我が儘言ってる。だからソフィアも俺にいっぱい我が儘言うこと。これ、前にも言ったよ」
少し寂しそうな顔をするラファエルに慌てる。
ラファエルにそんな顔をして欲しいわけじゃない。
「分かったから! ラファエル…そんな顔しないで…」
そっとラファエルの頬に手を添えると、その手にラファエルがすり寄ってくる。
そのままラファエルが身を倒してくるので、私は抵抗なく受け入れた。




