第645話 そうだったんだ
誤字報告ありがとうございます。
「もごっ……」
私は頬張っていたクッキーを、口を押さえて口から出ないようにした。
もぐもぐと咀嚼して飲み込む。
「………え? ナルサスって罰で離れてたの? 私とアマリリスに近づけないためじゃなくて?」
ジェラルドが番になったと報告受けたときから時折見ないなぁ…とは思っていたけれど。
「そう。必要なとき以外には訓練場に放り込んでた」
何でもない顔をして目の前でお茶を飲んでいるラファエルを見つめる。
アマリリスを侍女除けに使っていたから、ジェラルドが番と宣言したことで、付きまとわないように顔を見せないのかと思ってた。
ラファエルも怒ってたんだね。
彼はラファエルの騎士だから口出しはしなかったのだけれど。
「………それで、今度はリーリエ王女にって…」
「クギさしたから大丈夫だよ」
「そう……」
アマリリスとリーリエ王女って似てるかしら……?
まぁ、美人だけれども。
美人の部類が違うと思うんだよね…
………うん、私に男の人の好みは分からないわ。
これは考えないようにしよう。
「今日もガイアス王太子とリーリエ王女はお祭りに?」
「うん、許可したよ。明日もね。存分に楽しんで宣伝してもらわないとね」
にっこり笑うのはいいんだけどね?
悪い顔になってるよラファエル。
苦笑しながらまた1つクッキーを手に取る。
これは温泉街の祭り屋台で販売している甘味の1つらしい。
アマリリスとフィーアが買ってきてくれたのだ。
今日のおやつに、と出してくれた。
「フルーツクッキー美味しい」
「そうだね。なかなかいいもの思いつくよね」
甘味店で販売しているラファエルのアイデアをアレンジして販売しているとか。
みんなが改良してくれて嬉しい。
美味しい物がどんどん増えていく。
「昨日のお祭りでは何も問題なかったの?」
「あるとすれば材料不足だったね。即完売するものが結構あったみたい。先行投資って事で溜めてた財を渡したよ」
「………きちんと調査した上で?」
「勿論だよ。誰が仕切ってると思ってるの」
………ですよね。
儀典を任されているのは精霊で、各屋台の裏側もしっかり調査されている。
不正など行えるはずもなく…
「信頼できないところは即営業中止にさせるから、と脅したのも効いてるのかも? でもまぁ、ちゃんとした者にしか温泉街の経営許可してないしね。その者達が屋台をやっているから心配ないよ」
「そう。よかった」
私が笑うとラファエルも笑う。
王宮内が静かなせいか、とっても穏やかな時間が流れている気がする。
今日も侍女と騎士を送り出しているから、いつも静かなオーフェスとラファエルの騎士が、置物のように壁際に立っている。
「そういえばガイアス王太子の罰は何になったの?」
「ん? 王族らしく肉体労働が苦手みたいだよ。だからそれ系にしようかなと」
「え…? でも魔物退治で出たりしてるはずでしょ…?」
「移動はマホウ、攻撃もマホウ、自分で身体動かして対処してたわけじゃないよ」
「ぁ……」
そうか…
ラファエルとか私基準で考えちゃダメなんだ。
「丁度良いからセンロの設置に力を貸してもらおう」
凄く良い笑顔になっているラファエルに苦笑しながら、私はクッキーを頬張ったのだった。




