第642話 ここにもいた ―R side―
ドクドクと心の臓が煩く、痛い。
なんであんなにソフィアは無意識で俺を揺さぶるんだろう。
口元を手で覆いながら足早に執務室へ向かう。
午前中は執務と祭りの報告を聞いて、午後にガイアス殿とリーリエ王女の感想聞いて……
顔の火照りを逃がすように仕事のことを考える。
ぁぁ……ソフィアが可愛い……
………って違うだろ俺!!
少し気を緩めるとすぐにソフィアの事を想ってしまう。
俺にとってはソフィアが一番大事だから、いいんだけど…
俺の心の臓が保たないし、仕事に集中できないとルイスが怒るし、国立て直さないといけないし。
ちゃんとした国になってからのソフィアとの結婚がいいしね。
とは言っても、ソフィアのアイデアで立て直しているから、立つ瀬がないけど…
「ラファエル様」
前方からルイスが歩いてくる。
丁度俺の執務室の前だった。
「おはようルイス。祭りは楽しかったかい?」
「………ええ。ありがとうございます」
………言葉と顔が合ってないんだけど…
「どうした? ローズ嬢がはしゃいでて疲れたのか?」
「いいえ…」
「なら?」
「………ソフィア様のお話ばかりでした」
「………ん?」
ルイスが遠い目をしている。
ソフィアの話ばかりとは……?
取りあえず執務室へ入った。
「ソフィアの話って?」
「お2人が出会って、どう過ごしていたのか、ですね。それを延々と聞かされていました」
「………」
ルイスの言葉に羨ましい心と、許せない心と、気の毒な心がある。
ソフィアの小さな頃の話は聞きたい。
俺はソフィアの幼い頃を知らないから。
羨ましすぎる。
俺よりルイスの方がソフィアに詳しくなるじゃないか。
それは許せないんだけど?
そして、婚約者とのデート中に話題がソフィアの事だけとは…
婚約者として大丈夫なのか?
ルイスとローズ嬢の婚約が心配になってきた…
「で? ルイスはローズ嬢に好きなものとか苦手なものの話とかはしてるのか?」
「………いえ?」
「………」
ソフィアの言葉を借りると、問題カップルがここにもいた、と。
「お前なぁ……」
「楽しそうだったので、そのまま相づちだけうちながら祭りの屋台を回っていました。可愛い形をした甘味や小物を好んで買っていましたね」
「………そりゃ女性だから可愛いものは好きだろうね……」
そういう好きなものじゃなくて……
「………はぁ。今日の夜も早く上がっていいから出かけてきなよ」
「ソフィア様が出かけられない以上、ラファエル様もこちらにいらっしゃるのでしょう? 臣下の私が遊んではいられません」
「いいから。俺はソフィアと過ごすのだから、デートしてこい」
「ですが……」
「大体ルイスは年が離れているのだから、ローズ嬢とより会話が必要だろう? 普段接点ないんだから、こういう時に親交を深めてこい。明日も行けよ?」
「ラファエル様……」
どうしたらいいか、戸惑っている顔をしているルイスは新鮮だ。
いつも俺を窘め、どうしたらいいのか導く方だから。
「いいな? これは命令だよ。完遂はそうだな……ローズ嬢の好みを把握し、より親密になる。それが課題だよ」
「………畏まりました」
嫌そうな顔をしているけれど、ルイスはそのまま机に向かった。
ソフィアもルイスとローズ嬢とのことは気になるだろうし。
このまま親睦を深められたらいいな。
俺はそんな事を思いながら自分の机へと向かった。
「………ぁぁ、もうソフィアに会いたいなぁ……」
あの可愛い反応をいつまでも見ていたい。
俺は椅子に座って頭を切り替え、書類に向かったのだった。




