第641話 いつも通りでした
「おはようソフィア。会いたかったよ」
「………」
アレからすぐに意識は飛んだけれども、眠りが浅かったのかボーッとベッドに転がっていた。
もう1度眠ろうかと思えば、目の前にヌッとラファエルが……
………ラファエル…?
「ふぇ!?」
「なにそれかわいー」
ビックリして慌てて起き上がってズサッと後ずさると、ラファエルがとろけそうな笑みを向けてくる。
ぐはっ……!!
起き抜けにその顔は辛い!!
っていうかラファエルどうしたの!?
寝起きじゃないの!?
なんでそんなに普通なの!?
テンション可笑しくない!?
ベッドに頬杖ついて、何故か嬉しそうに私を見ている。
昨日の続きなのだろうか?
でもラファエルの事情で私とは眠れないと言っていたのに、昨日のこと引き継いじゃったら意味ないんじゃ…
「ソフィアに早く会いたくて早起きした」
「そ、そうなの…?」
「うん。やっぱり朝はソフィアの顔から始まらないと」
にっこりといい顔で笑っているけれど、私の顔から始まる朝って何……
ラファエルの思考がたまに分からなくなるけど、いつも通りのラファエルのようにも見えるし……
「………おはようラファエル」
「うん、おはよう。今日も可愛いソフィアだね」
「っ……!?」
あ、朝から糖度が高いっ!!
カァッと顔が赤くなる。
私何にもしてないんだけど!?
何処にラファエルの美的センスが発動したの!?
「ごめんね? 昨日は一緒に眠ることが出来なくて」
「ぁ……ぅぅん。今日は一緒に寝れるの?」
「うん。頑張るよ」
………一緒に寝るだけなのに、頑張るとはこれ如何に……
「今日はガイアス殿とリーリエ王女に祭りの感想を聞く予定なんだ。ソフィアはちゃんと寝ててね?」
「うん。あ、お医者様は起き上がっているのは大丈夫って言ってた?」
「起き上がるのは大丈夫だよ。でも、ベッドから出て歩き回ったりしないでね」
「分かった」
こくんと頷くとラファエルが微笑んで、頭を撫でてくれる。
いつもの雰囲気のラファエルに戻っていて、最初のはなんだったんだ、と思う。
私をからかうところもあるから、やっぱりからかわれてたのかな…?
恥ずかしいけど、ラファエルに愛されていると分かる言葉は嫌じゃないからいいけど……
………いや、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいから、止めて欲しいかも…
でも、言ったらラファエルが悲しむかもしれないから言わない。
それに、言ってラファエルが2度と言ってくれなくなっても嫌だし…
………結局私はどうして欲しいのか分からなくなった。
だから思考を放棄する。
恥ずかしいけれど、ラファエルがラファエルならいいや。
「ソフィア?」
「ん?」
「何考えてるの?」
ラファエルがベッドに腰掛け、私の腰に腕を回した。
そして引き寄せられて、私は素直にそのままラファエルに寄りかかる。
少し悪戯心が芽生えたのは許容して欲しい。
だってやられっぱなしなんだもん。
ラファエルも照れてくれたら嬉しい。
「ラファエルが格好いいなって」
笑ってラファエルを見上げると、ラファエルが笑顔のまま固まってしまった。
………あ、あれ…?
私が思っていたラファエルの反応と違う…
「あ、時間だ」
「え……?」
突然ラファエルが腕時計を見て、私を離して立ち上がった。
完全に寄りかかって体重を預けていた私は、よろけてベッドに手をつく。
「じゃあソフィア。大人しくしててね?」
「は、い……?」
唖然として去って行くラファエルの後ろ姿を見送り、私はガックリと肩を落とした。
ラファエルが照れてくれなかった。
簡単に照れてくれるときと、照れてくれないときの差は一体……
「………はぁ……」
私はため息をついてベッドにパフッと横たわった。




