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第640話 来るんじゃなかった ―Re side―




「……ソフィアが可愛すぎて辛い」


俺は今日、ガイアス殿とリーリエ嬢の目付役として、祭りへと同行していた。


親父にランドルフ国へ共に行き、祭りの様子を見てこいと言われたのが1つ。


ソフィアの回復を確実に見届けてこいと言われたのが1つ。


そして同盟国であるランドルフ国の被害状況はどうなのか見てこいと言われたのが1つ。


早速目的の1つである祭りを見がてら、ソフィアと共に過ごすというラファエル殿の代わりに、マジュ国2人の様子も見るということで同行。

祭りの屋台は随分参考になった。

温泉街の店の従業員が屋台担当ということで接客には慣れているし、なにより種類が豊富だった。

まぁ、殆どがラファエル殿とソフィア監修の元に作られた甘味だったけれど。

サンチェス国ではなかなかに独占は難しいだろう。

やはりサンチェス国民とランドルフ国民がやる屋台の種類を分けて正解だった。

食べたこともない甘味や食べ物を頬張ると、自然と頬がほころんだ。

全部は無理なので、後の2日間も有意義に使おう。

そしてなによりランドルフ国のみで行われる圧巻的な夜空に咲く花。

アレは感動ものだったね。

ソフィアの知識で作られたものは人の心を動かす。

さすが我が妹。

期待を良い意味でぶち壊してくれる。

夢見心地で王宮へと戻り、マジュ国の2人を監視役の騎士に任せ、俺は報告と感想のためにラファエル殿を訪ねた。

どこか上の空だったラファエル殿に招き入れられた王太子の部屋。

ラファエル殿が用意したお茶をまずは飲んでいると、膝に肘をつき、手に顎を乗せて真剣な顔で見つめられた。

………何かあったのか…

俺はゆっくりとカップを元に戻す途中に、ラファエル殿が呟いた言葉。

………いつも通りだった、とまたお茶に口を付ける。


「俺がいない間に、ソフィアとイチャついてたの? 俺はラファエル殿の代わりにマジュ国の2人を監視してたのに」

「よく言うよ。かなりたくさん食べてたみたいだね。堪能してきた?」


互いににっこり笑って相手に問う。

そして、ふふふ…と意味深に含み笑いをする。


「………あ~……早く結婚したい…」


どうやら何かしらラファエル殿を刺激する行動か言動を、ソフィアはしたらしい。

ラファエル殿の理性が飛んでいきそうな感じ。

影からの報告を聞いていると、ソフィアは狙っているのか天然なのか分からない誘惑してるからねぇ…

健全な男には少々辛い。

紳士じゃなかったら、ソフィアはとっくの昔に喰われているだろうねぇ。

ラファエル殿が相手で良かったね。

このまま結婚するまで頼むよ。


「まだ先だねぇ」

「………レオポルド殿はいいよね。奥方がもういるんだから…」

「俺だって、いや俺の方が婚約期間長かったんだけどねぇ。なにせ幼馴染みだったから年齢が1桁の時からの婚約だよ?」

「むぅ……はぁ…ソフィアに口づけたい……明日朝一で会いに行って抱きしめて……」


………一応俺はソフィアの兄なんだけどね?

俺の前で手を出す宣言止めて欲しいんだけど。

今の状態ではソフィアとの一線を越えてしまいそうで、ここにいるんだろうけど。

そういうのは心の中にしまっておいて欲しいね。

まぁ、ここにカサブランカがいれば、俺も同じようになってしまったかもしれない。

身重のカサブランカに無理はさせられないから、やっぱり俺も引きこもるだろうな。


「……ソフィアに会いたい……」


………多分、さっきまで一緒だったよね?

そんな悲痛な顔で頭を抱えなくても……

報告は明日にして、さっさと寝るんだった。

来るんじゃなかったと俺は後悔している。

ソフィアを溺愛してくれるのは嬉しい。

変な男に嫁がせるよりよっぽど。

けれど男の俺から見て、何故ラファエル殿がこうなるのかが分からない。

いや、俺も愛する妻がいるから分かるよ?

1瞬でも傍にいたい、と。

でもある程度は王族の矜持を保つために、心の中ではどう思っていても口には出さない。

ラファエル殿に心を許してもらっているのだろうけれど。

あまりに素直に口に出すのが疑問だ。


「………ラファエル殿。また明日ソフィアに会えるんだから、今夜は我慢だよ」

「………レオポルド殿の奥方は良いよね…」

「ん?」

「………飛び立っていかないから……」


何故ラファエル殿がそこまでソフィアに執着するのか。

ようやく分かった気がした。

成る程、ソフィアは自由奔放。

ラファエル殿が作る鳥かごに大人しくいる鳥ではない。

ソフィアが動くと、少なからずラファエル殿を不安にさせる。

今までのソフィアの行動が、ラファエル殿をそうさせた。

大丈夫だと思っていても不安は残る。

誰が何と言おうと、たとえソフィア自身が何処にも行かないと言おうとも、不安はあるのだろう。

言葉で、態度で、ソフィアの体も心も繋ぎ止めようと、必死に足掻いている。

ソフィアが好きすぎる故に。


「大丈夫だよ」


無駄だと分かっていても告げる。


「ソフィアにはラファエル殿しかいないから」


ラファエル殿は笑った。

本当の笑みではないけれど、今日の所は眠れるだろう。

ソフィアも罪な女だよね。

無意識にラファエル殿を籠絡し、自分に繋ぎ止めているのだから。

そっと微笑み、またお茶に口を付けたのだった。


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