第637話 からかわないで
ラファエルの着付けが無事に出来て、私は満足していた。
自分で縫ったとはいえ、自画自賛したいほど綺麗だ。
彼によく似合っているし、これからも毎年ラファエルに浴衣を縫おうと思える。
「さて、じゃあソフィア行こうか」
こくんと頷いた私を、ラファエルがヒョイッと抱えた。
………ん!?
「ちょ、ラファエル!?」
「ん?」
「あ、歩け…」
「歩いちゃダメでしょ。医者に止められてるんだから」
「う……」
そうでした……
「本当はベッドから出すのも渋られたんだよ?」
「え……」
「でも俺が抱えて移動して、しかも今日だけだからって条件で許しを得たんだよ?」
「それは……」
お礼を言えば良いのか、詫びたら良いのか分からず、口ごもってしまう。
結局答えられないまま、私を抱いたままラファエルが歩き出した。
オーフェスが無駄のない動きで扉を開けていく。
………これで王宮内を歩くんですか?
超恥ずかしいんですけれども!!
カァッと赤くなる頬を押さえる。
「どうしたの?」
「………騎士や使用人に見られると思うと…」
「………今更……」
「ぅぅ……」
ラファエルに呆れた顔を向けられた。
だ、だって、恥ずかしいものは恥ずかしいじゃない!?
「ほらソフィア。落とさないけど安定のために首に腕回して」
「………はい…」
大人しくラファエルの首に腕を回し、ついでに顔をラファエルの首筋に埋めた。
これなら私の顔を見られることはないだろう。
「ソフィア、いい匂いがするね」
「か、嗅がないで!?」
「いつものソフィアと違う匂いだね。香でも付けてる?」
いや聞いて!?
クンクンと私の首筋に鼻を近づけて嗅がないでぇ!!
「た、多分フィーアが浴衣に香を付けてくれてたんだと思うっ!!」
恥ずかしい!!
けど、暴れたらラファエルが危ないっ!
大人しくするしかなかった。
「良い仕事するね」
「………私の侍女だから…」
「でも、ちょっと褒める気はしないなぁ…」
え、今褒めたよね…?
「俺の理性を試されてる気分だ」
「え……」
「俺好みの香りを放っている愛しいソフィアが腕の中にいるんだよ? しかもはだけやすいユカタときてる」
ラファエルの視線が私から外れる。
………ん!?
彼の視線は私の浴衣の合わせ目に……!?
「ちょっ……!?」
私は急いで胸元と太ももの合わせ目を手で握る。
「………ソフィア、安定しない」
「ラファエルが変なこと言うからでしょ!?」
私の顔が更に赤くなったのが分かった。
ラファエルはなんでそういう事言うかな!?
「………結婚してたらここで押し倒せるのに……」
「結婚しててもこんなところで押し倒さないでよ!!」
ボソッと独り言を呟いたのかもしれないけれど、聞こえてるからね!?
この距離は聞こえるからね!?
わざとかもだけど!!
「冗談だよ」
にっこり良い笑顔を向けられても信用できないわよ!?
「ソフィアの可愛い姿を晒すわけないじゃないか。ちゃんと寝室へ行くよ」
「何を言ってるの!!」
途中でからかわれているのが分かっても、私は反射的に返すことしか出来なかった。
さっきラファエルは私が照れるのが嬉しいと言っていたから、恥ずかしくて言い返す私を見るのが楽しいのだろう。
からかいが過激すぎる気がするのですけれども!?
「ほらソフィア、ついたよ」
屋上についてラファエルの腕から降ろされる、わけもなく、私は抱えられたまま。
用意されていたソファーにラファエルが座り、その膝の上に私は座ることになった。
ご機嫌なラファエルが私を降ろすわけもなく…
諦めて私は温泉街の方へ視線を向けたのだった。




