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第632話 治っ……た…?




すっきり。

その表現が1番しっくりくる。


「………はれ…? らふぁえる……?」


………多少舌足らずになっているのは、喉がカラカラだからだ。

断じて体調不良ではない。

ベッドで隣にいないラファエルは何処に行ったのだろうか、と首を傾げる。

枕元に置いてくれていた腕時計を見る。

5時だった。

うっすら空が明るんでくる時間だろう。


「………み、ず……」


ベッドから降りようとして踏みとどまる。

私は昨日ランドルフ国へ帰ってきたはずだ。

ラファエルに抱えられて。

で、瞬間移動の魔法に酔って風邪と合わさって意識不明になった、はず。

従って、私は現在、勝手に動き回ればしこたま怒られると予測される。

そして、まともに歩ける保証はない。

………うん。


「らいとぉ」

『………はい』

「みじゅ……」


………「みじゅ」ってなんだ。


『………はい』


その突っ込んでいいのか迷ったあげく、結局何も言わないという放置は止めてくれ。

なんでソフィーに頼まないのかって?

ソフィー伝いに騎士へ。

騎士伝いでラファエルに伝わるでしょう?

今ラファエルに来られるのは遠慮したいのですよ。

何故かって?

この舌足らずで恥ずかしい思いをする私を見て、変なラファエルの美的センスが発動しそうだからです。

「俺のソフィアが可愛くて辛い」とかなんとか言いそうだから。

私的には絶対に可愛いと思わないし、最近のラファエルの口癖になりつつあるあの台詞を封印したいから。

周りに頭可笑しいって思われちゃうわよ。

王太子がそれではダメだろう。


「姫」


………何故寝室の入り口から堂々と入ってくるんだライト。

そして何故か1人ではなかった。

ライトの背後に、なんかいる…


「水と王太子です」


………何しちゃってくれてんの。

ラファエルが立っているのを視界に入れないようにしつつ、ライトをジト目で見ると、肩を竦ませられる。


「起きたら報告するように言われていたので」


コップを渡して天井裏に逃げるんじゃない!!


「ソフィア、平気?」


心配そうに覗き込んでくるラファエルに頷く。

………やっぱり、ライトはあの時から私よりラファエル優先させてない?

ライトの思惑は分からないけれど…

こくり、と水を飲む。

ぅぅ……渇いた喉が生き返る……

飲み物があるって素晴らしい。

落ち着いたところでラファエルを改めて見る。

それにしても珍しいこともあるものだ。

ラファエルが真っ先に詰め寄ってこないなんて…


「………はれ……?」


………うん、水を飲んでも言葉は戻らなかったぞ。


「………ソフィア……?」


不思議そうに覗かないで下さいラファエル。

今羞恥心でいっぱいだから。


「ごみぇんらふぁえる……」

「………ソフィアが可愛すぎるんだけど……今度ソフィアの言葉を残せる機械でも作ろうかな…」


………変なところから録音機具のアイデア出さないで下さい。

恥ずかしくて俯いてしまうと、コツンと額と額をくっつけられる。


『こっちなら喋れるかな?』


ぁ……頭に直接ラファエルの声が聞こえてくる。

有り難く便乗させてもらおう。


『ありがとう…ラファエルどこか行くの……?』

『なんで?』

『その服、王太子の……』


ラファエルは王太子の正装をしていた。

よく似合っている。


『ああ、祭りの最終確認で、店の代表者が集まってくるからね』

『そうなんだ…』


そういえば今日の夕方だったよね。

体調も良くなってるし……


『熱も下がったし、ラファエルと……』

『ダメ』


一緒に行く、とまでは言わせてもらえなかった。


『でも……』

『ダメったらダメ。ぶり返したらいけないし、医者も止めてる。2・3日は安静だよ。ベッドから出ちゃダメ』


ラファエルの許可が下りずにシュンとしてしまう。

………でも、そうだよね。

渋々引き下がる。

そしてやっぱりベッドから出ないのが正解だったらしい。


『いい子。来年を楽しみにしておこう』

『………ん』


素直にこくんと頷く。

当たり前に来年の話をする。

ラファエルが当たり前のように、私が隣にいる未来を語ってくれることが、そんな些細なことが嬉しい。


『当たり前でしょ。俺の隣は一生ソフィアのモノだよ』

「………ふぇ!?」


考えていることに対しての返答が帰ってきて、ビックリする。

そして通信しているときは考えが読めることを思い出した。

カァッと顔を赤くする私を、機嫌良く見たラファエルは、私の唇を奪ってきた。


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