第631話 ランドルフ国へ帰還
「絶好の移動日和だね!」
頭がガンガンする。
元気のいいお兄様をぼんやりする視界で見つめる。
結論から言うと――悪化しました。
朝起きてみれば体調最悪。
けれど帰ると決めた以上、ランドルフ国へと帰還します。
現在?
ラファエルに抱き上げられて馬車に乗り込んだところだけれど、なにか?
で、何故かその馬車にお兄様が乗っているんですが?
そして罪人扱いのガイアス・マジュと監視役のリーリエ王女も乗り込んでいる。
王宮所有の馬車だから結構な広さですよ?
でもね…
お兄様をつい半目で見てしまう。
近くで大きな声出さないで欲しいんですよ…
眉間にシワが寄っていたのか、ラファエルが頭を撫でてくれる。
ちなみに今はラファエルの膝の上に座って、グッタリと寄りかかっています。
「レオポルド殿」
「え? ああ、ごめん」
ラファエルに言われ、私の状態を改めて確認したお兄様は静かになった。
よかった。
「………ソフィアが耐えられるんだろうね?」
「隣国ですから一瞬です。大丈夫かと」
リーリエ王女が外に合図を送った。
すると、外に待機していた魔導士が杖を振った。
ぐんっと引っ張られる感じがし、お腹がグッと押されたような気持ち悪さが一気に来た。
バッと両手で口を塞ぐ。
時間的に一瞬だったんだろうけれど、私には数分、数十分経ったような感じがする。
体調が悪いとここまでなるんだ。
「ソフィア!!」
ズルッとラファエルに寄りかかっていた身体が支えられずに、ラファエルから離れてしまう。
慌ててラファエルが抱き直してくれるけれども、私にはもうラファエルに寄りかかれるほどの元気はなかった。
「早く王宮へ!」
ガラガラと馬車が動き出す音がする。
瞬間移動とやらでもうランドルフ国にいるらしい。
私の状態から判断して、国境を素通りして直接王宮の傍へ移動するように話はついていたそうだ。
「ソフィアしっかりして!!」
青ざめているラファエルをどこか他人事に見つめる。
相変わらず吐き気はあるし、頭がガンガンと痛むけれど。
………我が儘言わずに、サンチェス国で治るまでいるんだった…
後悔先に立たずって言葉が、身に染みるわ…
ここまで重なるとキツいね…
精霊の力を使ったら大人しく療養すること。
………教訓だわ…
免疫力落ちたら、風邪って引きやすいしね…
「水飲む!?」
ラファエルが聞いてくるけれど、絶対吐く気がする。
フルッと首を横に振るけれど、1センチも動かせたかどうかも怪しい。
けれどもラファエルは分かってくれたようで、私の後頭部に手を当て、自分の肩に私の頭を乗せさせてくれる。
あれかな。
車酔いみたいな感じも加わってるのかもしれない。
振動はそんなになかったけれど、ガラガラいう車輪の音はしていた。
その音がしなくなったと同時に、バッと扉が開く。
「ラファエル様!」
開けてくれたのはオーフェスだった。
遠目にヒューバートが王宮内へ駆け込んでいく後ろ姿が見える。
医者を呼んできてくれるのだろう。
「ありがと!」
ラファエルは急いで、けれども振動がないように私を抱えて降りる。
そのまま足早に王宮内へ。
景色は動いているのに振動が殆どない。
ラファエルの気遣いに泣きそうだ。
そう思っていると頬に生暖かい涙が伝ったのが分かった。
………ぁ~……体調が極限まで悪くなると人って自然に泣けてくるんだ……
「! ソフィア、ごめん辛かった?」
「… ……」
口を開いたけれども、音にならなかった。
顔も動きそうにない。
止まって覗き込んでくるラファエルに視線を向け、左右に振る。
それだけで否定と判断してくれたラファエルは少しホッとするけれど、険しい顔は変わりない。
………本当に申し訳ない…
「後ちょっとだから頑張れる?」
今度は視線を上下させると微笑んでくれ、また動き出す。
「眠れそうだったら眠っていいからね」
優しいラファエルの声がして、ラファエルを見上げたかったけれども出来なかった。
吐き気が大分治まって、少し楽になっているのを表情で分かってくれたのかな…?
代わりにラファエルの服をキュッと弱々しいけれど握れば、スリッと頬で頭を撫でられる。
迷惑をかけているのに、変わらず優しいラファエル。
涙が溢れた。
ありがとうの意味も込めて、今できる精一杯の力でラファエルの首筋にすり寄った。
そして部屋に辿り着く前に、私は意識を手放してしまったのだった。
「………おやすみソフィア。大丈夫だよ。次に起きたら元気になってるから」
優しいラファエルの声が聞こえた気がした。




