第630話 熱
「ただいまソフィア」
ウトウトしつつ、でも眠れるまではいかなくて、ボーッとなんとなく部屋を眺めているとラファエルが帰ってきた。
「お帰りラファエル…」
「眠れそうだった? ごめん」
そっと優しく頭を撫でられる。
ゆるっと首を横に振る。
「眠い……んだと思うんだけど……眠れなくて…」
「そう。添い寝いる?」
少し考え、また首を横に振る。
「今日お兄様帰ってくるでしょ…?」
「ああ、確かにね」
ラファエルは私の顔の近くで、ベッドに腰掛けた。
頭はまだ撫でられたままだ。
「………起きたらいなかったけど、何処に……?」
「ああ。ガイアス殿の所だよ。ランドルフ国に来たときの罰労働の件。まだ具体的に詰められてなくてね。前にソフィアに出て行ってもらってレオポルド殿と3人で話してたんだけど」
王太子話はその件だったのか…
「労働だから、王太子には厳しい事が結構あるじゃん? だから、前は何が出来るか聞き出して、それを元に考えた罰リストを渡してきたの」
「………選ばせるんだ…?」
「まずはね。選ばせるやつは結構緩めに設定したけど、最終的に決めるのは俺だから。向こうが決めた罰をふまえてその系統の厳しいやつやらせるの」
………上げて落とす、みたいな?
苦笑して私は起き上がろうとすれば止められる。
「怠いんでしょ?」
「え……うん…」
何故分かる…
「ん~………」
突然ラファエルにコツンと額に彼の額がくっつけられる。
あ、ひんやりしてて気持ちいい…
ラファエルは暫く考えた後に離れて行く。
「うん。やっぱり熱があるね」
「え…」
ラファエルの言葉に、隅に待機していたソフィーが慌てて出て行った。
「………熱…?」
「うん、熱」
「………うそ……」
「ホント」
私は自分の額に手を置くけれど、分からなかった。
「目は潤んでるし、顔は全体的にいつもより赤らんでるし」
そっと首筋に手を這わせられる。
くすぐったくて肩を竦ませる。
「脈も速い」
「………ラファエルって、私の顔を見ただけで分かるんだね…」
「いつも見てるからね」
私もいつもラファエルを見てるけど分からないわよ。
ちょっと可笑しいかな…? って思うぐらいで。
ラファエルみたいに自信持てないって。
「………ぅぁ~……」
私は枕に顔を埋める。
どうしよう。
こんなんじゃとても祭りに間に合わない。
………だって明後日だもの…
「気にせず休みな。明日俺は帰るけど、また戻ってくるから」
「………ん~ん。お祭りの挨拶もだけど、監視とか管理があるでしょ? それにそろそろルイスの堪忍袋の緒が切れるよ」
「放っとけばいいよ」
「ダメだよ。ラファエルは王太子なんだから」
「ソフィア…」
困った顔になるラファエルに、私は起き上がってラファエルの首筋に手を伸ばす。
私の行動に気付いたラファエルは、私の腰に腕を回して引き寄せた。
しっかりと私はラファエルの首筋に抱きつける。
「……私も明日一緒に帰るから…ね…?」
「ダメだよ。熱が下がらないと」
「私がランドルフ国にいれば、ラファエルは仕事も出来るし、私の様子もすぐに見に来れるでしょ…?」
「ソフィア…」
スリッとラファエルの首筋にすり寄る。
………やっぱりドキドキするけど、ラファエルの匂いは落ち着かせてくれる。
「………ラファエルと一緒に帰るもん…一緒にいるもん…」
「………俺のソフィアが可愛すぎて辛い…」
あ、いつものラファエルの言葉が聞こえ、私はラファエルが折れたことを知る。
ホッとしてソフィーが濡れタオルなどの用意が終わるまで、ラファエルにくっついていた。
後でこの行為は、ラファエルに移してしまう可能性があったと気づき、真っ青になった。




