第629話 人騒がせ
昨日の夜中に私は羞恥心でいっぱいだった。
その後眠れるはずはない――こともなく、ラファエルの腕の中でぐっすりでしたが、なにか?
なんでラファエルの腕の中は安心するんだろうか。
………好きな人だから?
いや逆に眠れないでしょうよ!?
私案外図太いな!?
1人での心の中で突っ込みながら、ベッドの上でソフィーが用意してくれた紅茶を飲んでいる。
そして起きたら隣にラファエルいないとか。
べ、別に寂しくないし…
「姫様」
「ん?」
ソフィーに声をかけられ、彼女を見る。
「ジェラルドが戻ってきているようですが」
「昨日の今日で? リーリエ王女にギャレット公爵家へ行ってもらったのよね? お姉様はどうだったの?」
「その件でジェラルドから報告があるそうですが、入室させてもよろしいでしょうか?」
「うん」
許可を出すとソフィーが一旦寝室から出て行き、ジェラルドと共にまた入室してきた。
「ソフィア様大丈夫ぅ?」
「ええ。大丈夫よ」
こくんと頷いて答える。
「良かったぁ。帰ってきたらあれから倒れたって聞いて。ごめんね…」
「構わないわよ。動きすぎただけだと思うわ」
「ほんと……?」
「ええ。ジェラルドのせいではないから」
心配そうに見てくるジェラルドに笑みを向ける。
おかげでラファエルがいつも以上に一緒にいてくれるから嬉しい、とか言えない。
あんなに恥ずかしかったのに、後になるとやっぱり嬉しいのだから不思議だ。
「具合悪くなったらすぐ寝てよ?」
「そうする。それで? 報告があるんでしょ?」
「うん」
ジェラルドがこくんと頷き、扉の前にいたけれど近くまで来る。
「あのね、リーリエ王女が家に来てくれてね、色々父親と話してたんだけどぉ、途中でぇ――」
私は一瞬で悟った。
あ、これ長くなるやつだ、と。
「結論から。結局ジェラルドのお姉様はどうなったの?」
「え? あ、うん。起きたよぉ」
「そう」
それなら一安心だね…
これでもし起きなかったら、問題になるやつだったし。
「見合いが嫌だったから、こんすいじょうたい? のフリしてたんだってぇ」
「………」
ジェラルドの言葉に固まってしまう。
昏睡状態のフリ…
………つまり……仮病だったと…?
「………ねぇ」
「なぁにぃ?」
ジェラルドは普段通りでキョトンとしている。
「………魔物にビックリして転んで、そのまま転がって逃げて、川まで落ちて、更に滑って転んだ、って言ってたわよね?」
「うん。でも、鍛えてたから、あれぐらいじゃどうにもならないはずなんだけどぉ、起きなかったから、大騒ぎだったのぉ」
「………」
ぽかん、と間抜け面してしまった私は、絶対に悪くないはずだ。
……ん?
…鍛えてる…?
「ああ、確かジェラルドのお姉様はギャレット公爵家の兵士の中に混ざっているのだったわね」
「そう。女は王宮兵士所属にはなれないから」
その規則も男尊女卑だから変えた方がいいと思うんだけどな。
「リーリエ王女が来て、回復魔法をかけ始めたときに気付いたって。治療の必要がないって言葉に観念したんだって」
「………人騒がせな…」
「ホントだよねぇ」
………いや、ジェラルドも人のこと言えないと思う。
「それで? お姉様のお見合い相手って?」
「ん? さぁ?」
知らないのか。
知っておけよ。
自分の姉の、もしかしたら義理の兄になる男だろうに。
「今度聞いとく?」
「………別に興味は無いわよ」
公爵家の結婚のことだから知っておかないといけないのだろうけれど、まだ見合いもしていない段階だから知る必要はないわ。
「取りあえず心配ないってところは一安心ね」
「うん」
「後はギャレット公爵家の問題だから。リーリエ王女にもお礼を言っておきなさいよ?」
「はぁい」
ジェラルドが出て行き、冷めたお茶を飲む。
私からリーリエ王女にはいいでしょう。
あれも後始末のうち、ということで。
話題に上がったら礼でいいでしょうね。
「ちょっと横になるわね」
「はい」
ソフィーがカップを回収し、私はベッドに横になった。




