第628話 甘すぎる
仮眠から目が覚めると、日が沈んで辺りが暗かった。
………マジか…
私は何時間寝て……
ゆっくりと起き上がろうとしたけれど、身体が動かなかった。
ギャレット公爵達との話が精神的にも肉体的にも堪えたのかな…?
隣に視線を向けると、それはそれは綺麗な顔が――
「………」
咄嗟に唇に力を入れて耐えたのは褒めて欲しい。
お兄様が出てるからって、当たり前のように一緒に寝るんだ…
ラファエルの寝顔をジッと眺める。
相変わらず綺麗なお顔で…
まつげは長いし、肌なんか私より綺麗だし。
ニキビと格闘なんて絶対にないよね。
羨ましすぎる。
髪はサラサラだし。
ラファエルの顔に欠点という欠点が一切ない。
平凡な私からすれば、それはそれは喉から手が出てしまいそうなほどに羨ましいのだ。
無い物ねだりは虚しいだけだけれども。
ちょっと触ってみてもいいかな。
そっと手を伸ばしてラファエルの頬に触れる。
………くっ……
そして後悔する。
艶々で手触りがいい。
男性だからケアもしてないはずなのに。
「………ラファエルのDNAもらったら、私もこういう肌になるのかしら………血を抜いて私の中に入れるとか」
「意味は分からないけど止めてね」
「っ!? ラファエル起きてたの!?」
「触れられて起きた」
あ、ごめん…
ゆっくりとラファエルの目が開いていく。
ぐはっ……!!
私は一気にHPを削られた気がする。
寝起きの潤んだ瞳は反則だと思うっ!!
心臓を押さえて枕に顔を埋める。
あ~静まれ心臓!!
何度経験しても慣れない…!!
「………俺の血を抜くとか怖いこと言わないで」
そうですね。
この世界に輸血なんて概念はないしね!
「ごめんなさい」
ラファエルは欠伸をしながら起き上がる。
「………何か食べる…?」
「え……」
頭を掻きながらベッドから降りて、彼は傍にあった机の上に用意された果物を1つ取った。
「いつ起きるか分からなかったから、食事は作ってもらってないんだ。結構寝そうだったから、軽く食べられる果物を持ってきてもらってた」
………そんなのどうやって憶測したのだろうか?
私の寝顔から?
何それ怖い…
寝起きで眠そうなラファエルにジッと見られている。
う……可愛い…
私はもう1度起き上がろうとして、挫折した。
「………食べたいけど、起き上がれません…」
「………ん」
正直に言うと、ラファエルは果物が入った籠をベッドに置き、私の脇に腕を入れて起き上がらせてくれる。
そして自分に寄りかかれるようにと背後に回って、ラファエルの身体を背もたれにさせられる。
「え……」
「………はい……あ~ん……」
………私の耳が死ぬ……
耳元で、寝起きの声で囁かないで!!
目の前にはラファエルの手でいつの間にか剥かれたカンキ。
………あ、みかんの事ね。
「ふぇ!?」
一気に赤面した気がする。
「………何それかわいー……」
だ、だから耳元で喋らないで!?
「………ほらソフィア……」
唇にカンキの実をちょんちょんと突くようにされ、私は恐る恐る口を開けた。
「ん……」
ラファエルは私の口の中にゆっくり押し込み、私は恥ずかしさで味も何も分からないカンキを口にしたのだった。
「………ぁ~……俺のソフィアが可愛い…食べていい……?」
「だ、ダ――」
ダメだという前に顎を取られ、横に向けられたと思えば、唇をラファエルのもので塞がれた。
その後、どこのバカップルだよ! と突っ込まれそうなくらい、ラファエルに果物を食べさせられ…
お腹がいっぱいになったときには、ベッドに突っ伏してしまったのだった。




