第627話 早すぎるってば
「ようこそ。ギャレット公爵」
私がお兄様の助言の後、即手紙をしたためジェラルドを送り出した。
数時間後、ジェラルドが戻ってきたと思えば父親と母親を連れてきたという。
………今日の今日かよ…
色々言いたいことはあったけれど、私はラファエルに抱き上げてもらって応接室へと移動させてもらった。
最初からこっちが座ってたら、私の立ち姿に違和感が出ることもないだろうしね。
応接室のソファーに座ってから、連れてくるようにジェラルドに言った。
数分後にジェラルドの父と母が入ってくる。
2人ともジェラルドの親だけに、ジェラルドにそっくりだった。
金の髪に同じく金の瞳。
公爵はすらりとした体格で、身長はオーフェスと同じぐらい。
当然顔は整っているし、ハッキリした顔立ちなので、デキる男の人、って感じか。
夫人は少しふくよかで私より身長が低い。
体格をカバーする為なのか、ふんわりしたドレスなのだけれども、それも横に大きく見えるから止めた方がいいと思う。
「この度は愚息が大変申し訳ないことをっ!」
「………」
バッと頭を下げるのはいいんだけれど…
私の手紙はきちんと読んでくれたのだろうか…?
簡単に概要は説明したんだけどな…
ジェラルドの婚約者となった者は私の侍女で、私もお父様達も許可しているので問題はない、と。
「頭をお上げ下さいギャレット公爵。夫人も。まずは座って下さい」
私がソファーを示すと、2人は戸惑ったまま座った。
「ジェラルドから報告を受けました。わたくしも説明しておらず申し訳ないですわ」
「い、いえ……」
「アマリリス」
私はアマリリスを私の背後に立つように呼んだ。
アマリリスは顔を俯けたまま私の後ろに立つ。
それにギャレット公爵は焦ったようだ。
「そ、その者がソフィア様を害したアマリリスですか! 危のうございます! 距離をお空け下さい!」
「落ち着いて下さいギャレット公爵」
思わず立ち上がったギャレット公爵を手で止め、再度座るように促す。
ジェラルドがアマリリスに害を加えられるのではないかと、急いでアマリリスを自分の後ろに隠すように移動してくる。
アマリリスは肩を震わせている。
「確かにアマリリスはわたくしを害そうとしました。けれど、彼女の罰はわたくしの身の回りを世話する侍女になり、一生仕えること」
「そのようなこと! 彼女がいつ寝首をかくか!」
「ありえません」
キッパリと言うと、ギャレット公爵も夫人も息を飲む。
「内密にはしておりましたが、アマリリスの首筋にはわたくしに危害を加えようとすれば死するように設定してある、ランドルフ国製の機械を埋め込んでいます」
「そのようなものが…」
「ですから、アマリリスはもうわたくしには逆らえません。他にも他者を傷つけるようなことも出来ませんのでご安心を」
私がハッキリと断言したことで胸をなで下ろす2人。
ごめんね、説明していなくて。
「ジェラルドとの婚約は、アマリリスを正式なわたくしの侍女にするための政略結婚を、わたくしが命じました」
「そう、だったのですか…」
「説明不足で申し訳ないですわ。けれど、ギャレット公爵がご心配下さったことにはなりませんので、2人を認めてやって下さいな」
私の言葉に2人は顔を見合わせ、考え込んだ。
アマリリスはまだ震えており、ジェラルドが肩に腕を回して寄りかからせている。
………こうしていると仲良く見えるのだけれども。
2人とも恋人らしいことはしてないんだよね…
仕事優先しすぎる。
「ソフィア様」
「はい」
「王は、本当に承諾しておられるのですか?」
「はい。お兄様にも。確認して頂いて構いませんよ」
「………そうですか……分かりました」
ギャレット公爵が言い、夫人も頷いた。
これで一安心だな……
「では、近いうちに正式な婚約書類を作成した方がよろしいかと」
………そうか。
この問題が浮上するって事は、正式に書類にしてなかったのも原因か。
気にしてなかったよ。
「分かりましたわ。お願いしておきますわ」
「いえ、我が愚息のことですので私が行っておきます」
「そう? ありがとう」
「いえ…」
笑ってお願いするとギャレット公爵が微妙な顔をしている。
………何故だ。
「その……厚かましい願いとは重々承知で、その…」
「………ぁぁ。御息女の治療の件はこちらで行わせて頂くわ。御息女はまだ公爵家ですの?」
「はい」
「では治療する者を派遣した方がいいですわね。けれど、確実ではないですのでご理解下さい」
「勿論です!」
ギャレット公爵と夫人が瞳を潤ませ頭を下げる。
ジェラルドに両親を連れて行かせ、ヒューバートにリーリエ王女に願ってくるように伝えて、私はラファエルに抱き上げられて自室へと戻った。
「………何か疲れた」
そう言えばラファエルがすぐにベッドへと私を運び、眠るように促した。
お言葉に甘えて私は仮眠を取らせてもらったのだった。




