第626話 考えが足りずにすみません
「………で?」
ジェラルドがお家騒動(?)の報告をしてきたので、アマリリスを呼び戻し、更にオーフェスをラファエルの精霊に乗せてお兄様に知らせに行ってもらった。
アマリリスに事情説明しているときに、超特急で戻ってきたお兄様。
ソファーに座って腕も足も組んでいる。
その顔は不機嫌そうだ。
半目で睨まれている。
………怖い。
「で、ですからわたくしはこのとおり体力に不安があるので、お兄様にギャレット公爵家まで赴いて頂けないかと…」
「………何で?」
今度は肘掛けに肘を乗せて頬杖をつく。
次から次へと問題を起こしやがって、的な顔しないで下さい。
魔物は私のせいではないですよ!
ぷるぷると震えていると、ラファエルが私の腰を抱いた。
「レオポルド殿。ソフィアが怯えてる」
「このぐらいのことで、罪人監視している俺を呼び戻さないでよ」
こ、このぐらいって……
しかもなんか行き違ってる!?
「わ、わたくしはお兄様に伝えて欲しいとお願いしただけで、帰ってきて下さいとは言ってませんわっ!!」
「うん。確かにね」
「え……」
即答されて私は固まってしまう。
伝言は間違っていなかった、と……?
「俺が罪人監視を終えて王宮へ帰ってきたら対応して欲しいって聞いてる」
じゃあ、なんで今ここにいるの…?
「な、なら……」
「でも、こんな簡単なことも処理できないダメダメな愛しい妹には伝言ではなく、直接言った方が良いだろう? あ、これが終わったらあっちに戻してね」
ゴンッと私の頭に岩が落ちたような気がした。
その岩にダメダメな妹、と書いている気がする。
「レオポルド殿……」
「ソフィアは出歩くの禁止でしょ? それになんでわざわざ王族が公爵家へ、視察でもないのに足を運ぶ必要があるの」
「え……」
「呼びつけたらいいだけの話でしょ。で、王宮で話したらいい。大体、ソフィアの侍女と兵士――じゃないや、騎士の事でしょ。自分で説明したら良いじゃないか」
「………ぁ……」
お兄様の言葉に私はポカンとしてしまう。
………そうか。
呼びだしたら良いのか…
頷きそうになって、まてよ…と止まる。
「………お兄様。わたくしは王女ですわよ……?」
「だから?」
「お兄様ならともかく、わたくしの名では、ギャレット公爵の足は動かないかと……」
「無理矢理動かしたらいいじゃん」
「………は!?」
また私は固まってしまう。
なんて簡単そうに言うんだ…
そもそも私は王女なんだって。
跪かれる立場だけれども、男から見れば女の存在は下であり、王女でも女である以上軽んじられるのだ。
お父様やお兄様の命令には絶対に従うけれど、私が命令すれば何かしらの理由でお断りされる場合がある。
「ジェラルドとアマリリスの件で話があるため、王宮へ来て欲しい。来てくれればジェラルドの姉の治療方法を探す、とか何とか言って公爵の来城を求めるんだよ。あくまで治せる保証はない、と明記して。頭を打って意識不明ならマホウとやらでも治せるか分からないだろう? あのマジュ国の者達の力は何処まで信用できるか分からないしな」
ハッ…と鼻で笑うお兄様。
………イラついているためか、態度が悪いな…
そして悪知恵が働く…
これも一種の交渉術なのだろう…
「ああ。リーリエ王女にも待機してもらうのか」
「別室で話を聞かれないようにだけしておけば大丈夫でしょ。さすがに他国にまでソフィアの侍女が罪人だったと知られるわけにはいかないからね」
「………はい……」
「話は終わったね」
お兄様がさっさと部屋を出て行く。
慌ててラファエルを見ると、頷いてお兄様の後をついて行った。
パタンと扉が閉まると、私は息を吐いた。
「………お兄様、マジギレ止めて欲しい…」
「姫様言葉遣い」
「ごめん」
ソフィーに突っ込まれ、すぐさま謝った。
壁際に立ち、居心地悪そうなアマリリスをチラ見し、便箋を用意するようにと指示をした。
………さて……ギャレット公爵は動いてくれるかしらね…




