第625話 端折りは禁物
「問題?」
今日も私はリハビリに励んでいた。
ラファエルの腕に掴まりながら。
そんな時、ジェラルドが珍しく困った顔でやってきた。
「うん……ちょっと…」
更に珍しく言い淀むジェラルド。
一体何だろう…?
ラファエルの腕に掴まったまま首を傾げる。
「あのねソフィア様…」
「だから何?」
「………ちょっと手を貸して欲しいんだけど…」
「だから何って聞いてるじゃない。私のこの状態でも出来るならやるわよ?」
言い淀んでいないでさっさと言って欲しい。
それにジェラルドがストレートに言ってこないのも気になる。
彼をそんな状態に出来ることがあることさえ驚きなのだ。
「実は……父と母がね……」
「うん」
「………アマリリスの事知っちゃって……」
ボソボソと囁かれるように言われた言葉は、辛うじて私に届く。
聞き間違いかと思ってラファエルを見上げるけれど、こちらも首を傾げている。
だよね?
私の聞き間違いじゃないわよね?
「………アマリリスとの婚約は、ちゃんと説明したんじゃなかったの? それで好きにしろって言われたんでしょ?」
「番にしたい平民の女の子がいる、って言った。で、好きにしろとも言われた」
「………それで何か問題でも?」
「『平民に落とされた王族に仇なした女とは聞いてない! ただでさえソフィア様はご苦労されているのに、これ以上苦労をかけさせるものではない! 王家にバレる前にさっさと別れてこい!』って……」
うわぁ……
どっから突っ込めばいいのか……
困ってラファエルをもう1度見上げると、ラファエルも苦笑していた。
「バレるも何も、アマリリスを私の侍女にしているのはお父様もお母様も、ついでにお兄様も納得済みだし…」
「………ぅん」
「レオポルド殿がついでになってるよソフィア…」とのラファエルの声が聞こえた気がするけれどもスルーしよう。
当時お兄様に怒られたなぁ…
「苦労を自分で背負った自覚もあるし」
「だよね」
あ、そこ即答するんだ。
「私はその罪人であるアマリリスを侍女にして傍に置いてるし」
「うん」
「正式な侍女とするためにジェラルドと結婚するようなものだし」
「俺はアマリリス好きだし」
「半分政略、半分恋愛、だから問題ないはずなのだけど?」
………っていうか、最初からジェラルドは両親に話してなかったのか…
そして何処からかアマリリスの事が耳に入ったな…
最初から説明しておけばこんな事にならなかったのに。
ジェラルドの事だ。
最速で認めてもらうために説明端折ったな……
で、今になって困って泣きついてきた、と。
あの様子ではまともに話を聞いてもらえなかったのだろう。
ジェラルドは5子だとしても、公爵家の一員だものね…
私付きの騎士だから尚のこと。
ランドルフ国に国籍移してもギャレットだしねぇ……
「お父様に説明してもらうわけにはいかないから……お兄様が帰ってきたときにお願いしてみようかしら…」
あ、誰かが「お前が行かねぇのかよ」って言ってる気がする。
………気のせいにしておこう。
「ソフィア様が行ってやらねぇの?」
あ、本当に言われたわ。
「何バカなことを言っているのよアルバート」
「へ?」
「今の私にギャレット公爵家まで行けと? そんなの無理に決まってるでしょ」
胸を張っていえば、呆れた顔を向けられる。
なんて失礼な!!
「行けねぇことを威張るなよ…」
「仕方ないでしょ! ギャレット公爵の前で倒れたらそれこそ王族として恥でしょうよ!」
第一まだラファエルの腕に掴まってないとスムーズに歩けないのだから、ギャレット家までの道のりに耐えられる体力があるのかも怪しい。
「………ソフィア」
「なに?」
「言っていることは正しいんだけど、アルバートの言うとおり、威張ることじゃないからね」
なんと、ラファエルに苦笑されてしまった。
「ごめんソフィア様……もう1つ……」
「………何?」
まだあった!?
「マモノの襲来の時、姉さんが丁度出かけてたらしくて……」
「魔物の被害に遭ったの!?」
「あ、いや……驚いて転んで、逃げるために転がって近くにあったらしい斜面からそのまま転がり落ちて、川に落ちてびしょ濡れになって、混乱して立ち上がったら足もとに何もないのに滑ってまた転んで、頭打ってまだ意識不明……」
ジェラルドが言いにくそうに言った言葉に、部屋の中の音が消えた。
思考が回復したのが1番早かったのは誰だったか……
取りあえずジェラルドのお姉さんがドジっ子なのは分かった……
驚いて転んだ、までは普通の令嬢ならありえるだろう。
けれどその後は魔物のせいと言うより、本人のせいだとも言えなくはない。
何故令嬢が地面を転がるの。
走って足を滑らせたなら分かるけど…
その後も不運な事故、と言えなくもない…
「………この場合はリーリエ王女にお願いしたらいいのかしら……」
確かリーリエ王女も回復魔法使えるんだよね……?
「………とりあえずレオポルド殿が帰ってきたら、リーリエ王女と共に向かってもらったら良いんじゃない……?」
ラファエルの提案を有り難く頂戴し、取りあえずジェラルドに厨房にいるだろうアマリリスを呼んでくるようにと追い出した。
ため息が出るのは許して欲しい。
………私の周りって、問題多いなぁ……




