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第622話 すっかり忘れて




リーリエ王女が魔法の枷を付けるところを見てみたい。

そう言ったのだけれど、許可は下りなかった。

私はまだ長時間移動や立っていることを禁止されているから。

ちなみに応接室まではラファエルに姫抱きされていきました。

とてもはずかしかったです。

全員に枷を付けるとなると、結構時間がかかるらしい。

呪文に時間が、ではなく、それなりに魔力を消費する術らしく、1人かけたら暫く魔力の回復を待たないといけないらしい。

その回復に時間がかかるからと、私は同席させられなかったのだ。

しゅん…とベッドに横たわっていると、温かい手が私の頭を撫でる。


「一応ランドルフ国へ行ったらガイアス殿にも枷を付けるらしいから、それまで我慢して」

「え? そうなの?」

「うん」


ラファエルが私の頭を撫でながら言った言葉に、私は食いつく。

やっと落ち着いた状態で魔法を見れそうだ。

思わず笑うとラファエルも笑う。


「………はっ!!」


ふと私は気づき、目を見開いた。


「………どうしたの?」

「ラファエル仕事っ!!」


ガバッと起き上がったせいでクラッと目眩がした。


「ソフィア!!」


咄嗟にラファエルが支えてくれなかったら、私はベッドから転げ落ちていただろう。


「ぅぅっ……」


目に映る景色がぐにゃりと歪む…

気持ち悪い…


「………もぉ……油断してるでしょ。そんなにすぐに回復するわけないでしょ…」

「ごめんなさい……こんな時魔法で回復できたらいいのに…」

「ガイアス殿なら前に見たから出来るだろうけど、ダメ」

「え……」

「便利さに慣れてしまえば今後もソフィアは同じ事をする」


………あのぉ…

キッパリと言わないでくれますか…?

確かに思っちゃいそうだけど…


「無茶したらそれ相応な時間をベッドで過ごすことになるって学習させているんだから」


………私、躾されているのかな…


「長期間ベッドに拘束されている気分どう? 俺の時間奪っている気分どう?」

「………申し訳ございませんでした…」


私が自分で動けたら、その場で土下座してたかも……

現状はラファエルに支えてもらえなかったら、とてもじゃないけどすぐにでもベッドに倒れ込んでいるだろう。

ラファエルが苦笑して、よしよしと頭を撫でてくれる。


「ルイスがいるから大丈夫だよ。………多分ね」


………全然安心できない…


「でも俺達が帰らなければお祭りできないからね」

「ぁ……」


そうだった!!

マジュ国騒動で忘れてた!!


「開催日まであと10日もないから、それまでにはソフィアの体調が元に戻ればいいんだけどね」


重ね重ね申し訳ない…


「………間に合わなかったら、ラファエルだけでもお祭り楽しんできてね?」

「嫌だ」

「………」


そ、即答されてしまった…


「もしそうなったら挨拶だけはしに行くけど、楽しむのはソフィアとがいいから、すぐに戻るよ。来年一緒に楽しむ」

「ラファエル…」

「民に告知も、店に準備もさせてるから日程をずらすことは出来ない。だから中止にはしない」

「うん。当然だよね」

「1人で楽しむつもりは毛頭ないよ。それにお祭りでソフィアとデートする約束だしね」


嬉しそうに笑うラファエルに、ズキリと胸が痛む。

私がこんな事になったせいで…


「………よし。早く治すぞっ!!」


拳を握って鼻息荒く言うと、ラファエルが苦笑した。


「気合いで治ればいいけど、そういうものじゃないから、ちゃんと横になって」

「えぇ? …ラファエルの腕の中、落ち着くのに…」

「………」

「………? ………ぁっ!!」


ラファエルが沈黙してしまい、首を傾げたが、直前の自分の発言にバッと口を手で塞ぐ。

わ、私は何を言っているの!?

カァッと顔が真っ赤になった気がする!

顔が熱いっ!!


「ソフィアぁ……」


はぁっとため息をつきながらラファエルが顔を手で覆った。


「は、はいっ!!」

「………添い寝してあげたいのは山々なんだけど、レオポルド殿にクギさされたから、我慢してるんだけど……」

「すいませんでしたっ!!」


さっきまでの私を殴りたいっ!!

ここはサンチェス国だから、ランドルフ国のようにはいかないのは当たり前で…


「………ソフィー」

「………はい」

「………レオポルド殿が近づいてくるのが分かったら教えて」

「………畏まりました」


スッとソフィーが退室していく。

………ぇ…?

2人きりになると、ラファエルが遠慮なくベッドに上がってくる。


「ソフィアの可愛い願いは叶えないとね」


イタズラが成功したような、子供みたいな笑みを見せたラファエルに、私は曖昧な笑みを浮かべてしまった。

嬉しいやら、怖いやら、でどんな顔をしたらいいか分からなかった。

けれどやっぱり嬉しいので、ラファエルにぎゅぅっと抱きついて、あっさりと意識を手放してしまったのだった。


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