第619話 …そんな男嫌です
ソフィーのお茶の準備が出来るまで中庭を散歩することにした。
………それにしても…
隣を歩いているリーリエ王女をチラ見する。
中庭を興味深そうに微笑んで見渡している。
………上手くお兄様の要望通り連れ出したのはいいけれど、話題がないな。
さっきまでの話はもう一区切りついているし…
「ソフィア王女」
お、向こうから話題を振ってくれるの?
便乗しよう。
「はい」
「ラファエル様とはもう長いのですか?」
「………もうすぐで1年になりますかね…?」
長期休暇が終わり、次の長期休みの前に卒業シーズンになる。
サンチェス国の卒業パーティーでラファエルに申し込まれたから……
………ぁ、嫌なこと思い出したぞ。
「まぁ……そんなに短いのですか?」
「どういう意味でしょう?」
首を傾げると、リーリエ王女は笑う。
「てっきり幼い頃からの付き合いかと思っていたものですから。お2人でいらっしゃるのが自然でしたので」
「そうですか? ガイアス殿下にも言われましたが、そのように見えているのでしたら嬉しいですわ」
同盟国でない限り、王族の婚約状況なんか分からないしね。
「リーリエ王女の婚約者はどうなのですか?」
「わたくしの方は完全に政略ですわ。仲良くしたいと思ってはいるのですけれど、あちらには愛人がいますし」
………ん?
「この間なんか、わざわざ王宮の庭で仲良くしていましたし」
………んん?
「いくら国が決めた婚約だからといっても、あからさまに嫌がられると、こちらももういいと思ってしまいますわよね」
「そ、そう、ですわね…」
反応に困るんですけど!?
「そんなに嫌ならお父様におっしゃればよろしいのに。あ、それも期待しての庭での逢瀬だったのでしょうか」
いや、聞かないで。
「昼間から盛るのはどうかと思いますが」
………ぇ…
な、仲良くって、そういう仲良く!?
唖然とリーリエ王女を見つめてしまった。
「ああ、目くらましの結界――姿を見えなくする結界は張っていたようですけれど、力が行使した魔術師より強ければ効かないんです」
「そ、そうなのですね…」
何から突っ込めばいいか分からない…
というか、これは聞かなかったことにしたい。
「男性はいいとしても、女性が純潔ではなくなってしまえば、嫁ぎ先も選べなくなってしまうのに……本当に自分勝手な人ですわ。相手のことを考えずに自分の欲で動く方を、王族の一員にするのはどうかと思うのです」
「………そうですね…」
………というかリーリエ王女…
そんな男と結婚できるの…?
私なら嫌なのだけれど…
「ソフィア王女でしたら、そういう男との婚約はどう思います?」
聞くの!?
それ私に聞くの!?
「………リーリエ王女には悪いと思いますが……わたくしなら最初からお断りします」
「そうですよね!?」
「わたくしの感情以前に、そういう方を身内に頂こうとは思いません。王族の――王家の責任は重いですから」
「やはりそうですよね。わたくし帰国したら婚約解消致しますわ」
キッパリと婚約者を切り捨てるリーリエ王女に苦笑する。
でも、本当にそういう人とは関わりあいたくないよね。
万が一ラファエルが浮気しようなら、なりふり構わず別れちゃうかも。
まぁ、絶対そんなこと起こりえるはずないけど。
「スッキリしましたわ」
「それは良かったです」
話が一段落した時、ソフィーがお茶を持ってくるのが見えた。
多分タイミング計っていたんだろうな。
「お待たせ致しました姫様」
「ありがとう」
手早く準備をしていくソフィーの手元を、リーリエ王女が興味深く見ている。
「あら。ラファエル様の甘味を持ってきてくれたのね」
「ラファエル様からのご注文もございましたから」
「ソフィア王女、ラファエル殿下の甘味とは、なんでしょう…?」
不思議そうに甘味を見て、私を見てくる。
「ラファエル様は甘味を作るのがお得意なのですわ。我が国の甘味店もランドルフ国の甘味店も、ラファエル様が考えた甘味を販売しておりますの」
「そうなのですか!?」
「とても美味しいのです。リーリエ王女も是非食べてみて下さい」
「はい!」
嬉しそうに席につくリーリエ王女に私は微笑み、対面に座ったのだった。




