第618話 他の状況
聖女に物申しに行きたかったけれど、却下された。
ここでラファエルとお兄様だけだったなら、頬を膨らませて唇を尖らせただろう。
「申し訳ございません…聖女はわたくしがきちんと罰を与えますので、どうかお怒りを沈めて下さいませんでしょうか?」
リーリエ王女に言われ、私は彼女に視線を向ける。
………まだ会ったばかりだけれども…
彼女の先程までの言動では、きちんとした教育を受けている王族だと分かる。
あくまで言っていることは、ね。
兄に対する仕打ち、扱いは酷いけど…
言葉遣いもちょっとね…
うん、まぁ私も人のこと言えないし。
ラファエルとお兄様は彼女の何処をどう見て、私と似ていると思っているのか…
ガイアス・マジュに対するあの酷い扱い、ではないといいな…
「分かりましたわ。リーリエ王女を信じましょう」
「ありがとうございます」
頭を下げるリーリエ王女に便乗するかのように、ガイアス・マジュも頭を下げた。
「………聖女に魔導士と同じ様な力があるか分かりませんが、国境を通らずサンチェス国やランドルフ国に来られては堪りません。入国禁止でも国境を通らずに来られればわたくしたちには分かりかねます」
………まぁ精霊に巡回してもらっていたら分かるけど、ランドルフ国はともかく、サンチェス国までは目が届かないから…
「きちんと再教育か――送り返して頂ければ、と」
この世界からいなくなってくれれば、私にとってこれ程好都合なことはない。
2度と聖女なんか視界に入れたくはない。
「送り返すことは可能です。ですが、ここまで他国に迷惑をかけた張本人です。ただ返すだけでは罪を償うことになりませんから、こちらで罰を与え、充分に反省させてから送り返そうと思っております」
「宜しくお願い致します」
どんな罰かは分からないけれども、彼女が生優しい罰を与えることはないだろう。
「聖女の処分はマジュ国に任せるとして、ここまでサンチェス国に被害が出ている以上、他の国の被害も気になる。何か分かっていることはないか?」
お兄様がリーリエ王女に話しかける。
それは私も気になっていた。
「他の国も主に特産品を好む魔物が入り込んでいるようですが、魔導士達が被害を最小限に抑えられているようです。わたくしもこちらの魔物を処理し終えた後、すぐに各国の魔導士に合流予定だったのですが……」
ジト目で視線をずらしたリーリエ王女の視線の先には、当然ガイアス・マジュがいて…
見られた彼はビクッと怯える。
………もう王太子交代したらいい…
「未来のマジュ国の頂点に立つ男が問題行動を起こすために、わたくしはこの男の監視役としていますので、他の王子と王女がそれぞれの国へと散っています」
「「ぁぁ…」」
………ラファエルとお兄様が同時に納得してしまった…
そして涙目になるんじゃないガイアス・マジュ…
リーリエ王女がもう王太子を“この男”と称してしまっているし…
「使えない魔導士及び聖女を派遣してしまい、本当に申し訳ないですわ…」
「それはもういい。元凶にはこちら側で罰を、聖女はそちらで処理するのだろう。これ以上こちらに被害を出さないのなら、その話は私とラファエル殿の中では割り切る」
お兄様の言葉にラファエルが頷く。
「ありがとうございます」
「だが、マジュ国の賠償金の支払いは相当なものになるだろうな」
「覚悟しておりますわ。国を潰すことになっても文句は言えません。マジュ国の民には申し訳ないですが、民は大なり小なり魔力を持った魔導士たり得る者達。理解してくれるでしょう」
全員が納得はしないだろうけれど、それ程のことをしてしまったのだから仕方がない。
「現在王に状況を連絡させに行かせてます。戻ってくるまで滞在を延ばすことになると思いますが…」
「問題ないよ。大人しくしていれば」
「はい」
「ソフィア」
急にお兄様に呼ばれ、私は顔を向ける。
「リーリエ王女と少し散歩でもしてくれば?」
突然の提案に、リーリエ王女が目をパチクリさせている。
私はお兄様の意図がすぐに分かったから、頷くことで了承する。
「はい。行ってまいりますわ」
立ち上がってリーリエ王女を促す。
戸惑っている様子だったけれど、彼女は大人しく私についてくる。
部屋を出て中庭へと向かう。
「あの、ソフィア王女? わたくしはお兄様とご一緒にいないとでは…」
「お兄様とラファエル様が、ガイアス殿下にお伺いしたいことがあるそうですので」
「あ、そういう事ですか…」
「ですので、リーリエ王女には申し訳ないですが、わたくしのお茶に付き合って下さいませ」
「え、あ、はい!」
驚いていたけれど嬉しそうに笑うリーリエ王女に私は笑い返し、共に歩いて行く。
心の中でソフィーにお茶を用意するように伝えながら。




