第616話 王女、なんですよね…?
「はじめましてですわ。わたくしは、リーリエ・マジュと申します。ソフィア王女とは仲良くして頂きたいと思っておりますが、わたくしの国が、聖女が、魔導士が犯してしまった罪を思えばそんなことを言える立場ではないと思っております。ソフィア王女をこんなに憔悴させてしまって申し訳ございません」
ポカンと、思わず見てしまった。
現在応接室。
お兄様に呼ばれてラファエルと共に入室すれば、開口一番に“土下座した”ガイアス王太子の頭をグリグリと床に押しつけ、捲し立てていたマジュ国王女だと思われる女性が、同じく土下座して入り口を塞いでいた。
「えっと……」
反応に困って、他人事のようにソファーに座って優雅にお茶に口を付けているお兄様を見る。
どうにかしろ。
………っていうか、マジュ国王女がマジュ国王太子に対しての扱いが酷い…
「マジュ国王女、取りあえずソファーに座ってくれない? ソフィアが困っている」
「あ、失礼しましたわ!」
慌てて立ち上がったマジュ国王女。
「ほらお兄様、座る許可が出ましたわよ。さっさと立ち上がって下さる?」
………そう言いつつもゲシッと王太子を足蹴にするのはどうかと…
やっぱり扱い酷いな。
「い、痛いよリーリエ!」
「何を仰っているのですか。ソフィア王女が被った痛みは、心の傷はこんなものじゃ済まされませんわよ!」
「ぐっ……」
「わたくしは最初からあの聖女は胡散臭いと言いましたわ」
………言葉遣い…
「それをお父様もお兄様もお聞きになさらず、聖女を持ち上げてるからそういう事になるんです」
「ぅぅ……」
ゲシゲシと遠慮なく踏み付けるのは、王女としてどうかと…
「女の勘を侮らないで下さいまし。最低限の礼儀を持ち合わせていない聖女を、我が国から出すなと何度もわたくしは告げました。お忘れですか」
「い、いや……覚えて、る……」
「それなのに出して、騒ぎ起こして」
ガイアス・マジュが縮こまっている。
………もう王女が王太子でよくね…?
「他国王太子に対しての非礼、婚約者がいる男性に言い寄る非礼、その婚約者の女性の部屋の窓に悪戯で済まされない悪意、扉の破壊」
………あ、全部知ってるんだ。
「なによりランドルフ国での役立たず聖女と王太子と魔導士」
「うぐっ!!」
………あ、言葉の刃がガイアス・マジュにクリティカルヒット。
「無能を他国にひけらかして、お父様とお兄様は我が国を潰したいんですかね?」
「そ、んな、ことっ!」
グリグリとガイアス・マジュの腹部に、王女のヒールが食い込んでいる。
………痛そう…
「潰したいんですよね? ええ、潰したいとしか思えません」
「ま、て、リー、リ、エ、それ、マズい、どご、ばいっで」
………止めた方がいいのだろうか…
イケメンの部類に入るガイアス・マジュの顔がゆがみ、涙目で、痛みが半端ないことを示していた。
まぁ、ヒールの大半がガイアス・マジュの身体に食い込んでいるしね…
「更にサンチェス国に送った魔導士のクズっぷり! これはもうマジュ国無くなるんですけど? 国潰して罪償うの? は? 世の中舐めてんのか? 舐めてるんだよね? そんなんで済むか!! 甘く見るな無能王太子が!!」
………もう取り繕うこと止めたのかな…?
私とラファエルはお兄様の隣に座って、お茶を片手に見物人と化していた。
「………やっぱりソフィアと同じ匂いを感じるんだけど」
「え……」
「同感だねぇ」
「………え!?」
お兄様とラファエルに言われ、私は交互に見てしまう。
マジで……?
いや、私はあんなには…
「ふぅ…」
額にかいた汗を拭い、良い笑顔でソファーに座る王女。
………床に沈んでいる王太子はスルーの方向でいいかな…?
「失礼致しました。改めてリーリエ・マジュと申します。数々の非礼、お詫び申し上げます。ラファエル・ランドルフ王太子。ソフィア・サンチェス王女」
………何事もなかったように丁寧に、王女らしい所作で頭を下げるリーリエ・マジュが恐ろしい。
「いえ、お気になさらず。リーリエ王女から受けた被害ではありませんので」
「いいえ。マジュ国の者が犯した罪は、わたくしの罪も同然。頭を下げて許される問題ではありませんが、どうか謝罪をお許し下さい」
「………」
ラファエルを見上げると、ラファエルは少し考えた後に顎を引いた。
「分かりました。誠意の1つとして、受け入れましょう」
「ありがとうございます」
ラファエルが言い、リーリエ・マジュが礼を言う。
ようやく話が進みそうで、私はお腹に力を入れたのだった。




