第614話 サンチェス国会議 ―R side―
「それでは本日の会議を始めさせて頂きます」
サンチェス国宰相の声が会議室に響く。
サンチェス国貴族達の他に、ガイアス・マジュ含めマジュ国組、そして囚われていたマジュ国の魔導士達が後ろ手に拘束され、王達の前に地に座らされている。
ガイアス・マジュ達はさすがに椅子が用意されているけれども。
「では、ガイアス・マジュ王太子」
「はい」
「今回、我が国にマモノとやらが放たれた際、すぐに報告がなかったことをご説明願いたい」
冷ややかな視線が突き刺さる中、ガイアス・マジュは立ち上がって頭を下げた。
「完全にこちらの落ち度です」
ガイアス・マジュは即認めた。
数秒頭を下げた後に顔を上げ、サンチェス国王を真っ直ぐ見つめる。
「我が国の結界が破れ、各国へ脅威になる魔物が解き放たれました。私どもは国に伝わる召喚の儀で聖女を異世界から呼び出しました」
………ああ、いたね、そんなのが。
「魔物殲滅のため、王の命により聖女と私はランドルフ国へ。そしてその他の国には有能な魔導士を数名に分けて送り出しました。国境を抜け、目の届く範囲で魔物の被害がないことを確認したら、真っ直ぐに各国王へと謁見を願うように命を出しておりました」
ふぅん…?
でも何故兵士に変装する事に?
「この者達がどのような意図で、こちらの兵士のフリをしていたかは分かりませんが、明らかな命令違反。国境付近でこちらの特産が失われ、対処できないと分かった時点で国に連絡とサンチェス国王に謁見願うべき所を、兵士に紛れ込み何もしていなかった。弁解しようもございません」
自国の王太子に見捨てられた魔導士達の顔色は真っ青だ。
「さらにソフィア・サンチェス王女に対処いただき、感謝するべきところを、1人の魔導士がつけ回したとか。いくらソフィア王女のお力に感銘を受けたとはいえ、1人の女性を追い回すなど、紳士として、人としてあってはならないこと。こちらとしては弁解のしようもございません」
だよね。
ソフィアをつけ回しただろう男が、ガタガタと震えている。
そんな大きい身体をしていて、見苦しい。
ガイアス王太子が守ってくれるとか思っていたのだろうか?
罪を犯した者が王太子に救ってもらおうと思えることが凄いけど。
俺のソフィアをつけ回しておいて、許されると思うなよ?
ガイアス殿が庇えば、それはそれで他国王太子といえども許さないけど。
冷ややかに見ていると男と目が合う。
………大した顔でないのに、それでよくソフィアに近づけたものだな。
思わず殺気を出してしまった。
「ひぃっ!?」
腰を抜かして、じりじりと下がっていく。
それを罪人魔導士達の両脇に立っていた兵士が押しとどめる。
「ラファエル殿、殺気が出てるよ」
「………失礼。あまりにも許せなくて。ソフィアが顔に出していなくとも、内心どんなに怯えていたことか想像してね。可哀想なソフィア…。俺がいたらすぐに消して、怯えるソフィアを守ってあげられたのに」
隣に座っているレオポルド殿に笑顔で話しかけられ、俺も笑顔を返した。
ますます魔導士が震えるのはなんでだろうね?
こんなに笑顔を作っているのに。
「………我が国にいるマモノとやらはもう対処したのだな?」
「はい。ソフィア王女に大半を処理して頂けておりましたから、残党を片付け、国中確認致しました。サンチェス国の魔物は全て殲滅しました」
「そうか」
サンチェス国王は無表情でガイアス殿を見る。
たじろぐことなく真っ直ぐにその視線を受け止めている姿を見れば、やはり王太子なのだなと思う。
………あんなに頼りなく見えてたのにね。
「この者達の処分についての意見はあるか」
「ありません。こちらの国の処分にお任せ致します」
あっさりと切り捨てられた魔導士達が、真っ青な顔のままガイアス殿を見上げるが、ガイアス殿が彼らに目を向けることはなかった。
見捨てたね。
正しい判断だ。
ここで庇えば、サンチェス国王の逆鱗に触れる。
サンチェス国王はソフィアを可愛がっているらしいからね。
そうは見えなくても。
「こちらの被害は我らがなかったことにはした。だが、あれだけの被害で他国にも既に知れ渡っているだろう。同盟国や近隣国に影響を及ぼした分の賠償はどうするつもりだ」
「恐れながら今は返答致しかねます」
「有耶無耶にする気か」
「いいえ。個人ならともかく、私の一存では国同士のことを安易に答えることは出来ません。マジュ国王に連絡を取り、後日返答させて頂きたく思います」
ガイアス殿の言葉に、俺とレオポルド殿は口角を上げた。
内心焦って勇み足で答えてしまうかと思えば、冷静に受け答えできていた。
ランドルフ国での彼の行動と言動を知っているが故、王太子としての受け答えが出来たことは評価しよう。
レオポルド殿が笑ったのは分からないけれど、悪印象は少し改善されたんじゃないかな。
「………いいだろう。返答があれば言付けよ」
「はい。ありがとうございます」
頭を下げたガイアス殿から視線を離し、サンチェス国王は宰相を見た。
宰相は頷き、口を開いた。
「これにて会議を終了いたします。罪人の処罰については後日書面にて配布致します」
王が立ち上がり出て行く。
それから俺とレオポルド殿が王族専用の扉から出た。
「後でソフィアの部屋に行くね」
「分かったよ」
レオポルド殿は王の後を、俺はソフィアの部屋へと向かった。




