第612話 地雷踏みました
目が覚めると、うたた寝しているラファエルの姿が目に入った。
………ん?
首を傾げ、視線だけで部屋を見回す。
カーテンの間から光がもれているから、夜ではない。
記憶があるのは……王宮に戻ってきたのは覚えてる。
ラファエルに馬から下ろしてもらったことも覚えてる。
そして恥ずかしくも王宮内を、ラファエルにお姫様抱っこで運んでもらい――
いや、拒否してたから無理矢理運ばれたんだ!
そこ間違えてはいけない!
顔が赤くなるっ!!
っとそうじゃなくて、それから……
………………………うん、記憶ない。
気絶したのかな…
で、私は寝かされている、と。
そしてラファエルが付き添ってくれてる状況、かな……?
しかも私はラファエルの手を握っている。
これは、私がラファエルを無理矢理付き添わせているという解釈でいいだろう。
事後処理とかあったと思うのに…仕事の邪魔しちゃった…
ゆっくりと起き上がって、そっと手を引くと、あっさりと私の手がラファエルの手から離れた。
………うん、確定です……迷惑かけちゃった…
大人しくしておけと言われたのに抜けだし、馬で連れ帰ってもらい、部屋に戻る途中で寝落ち、そしてラファエルの邪魔。
………私は何をしているのだろうか…
ラファエルに迷惑かけただけじゃないか。
何の役にもたってないのに、自己判断で王宮抜け出しちゃった。
で、でもでも!
ラファエルが怪我する可能性はあったはずで!
火精霊にホイホイしてもらわなきゃ、怪我人続出だったかもしれないし!
………ん?
私はベッドに手をついた。
役に立ったのは火精霊で、私ではない…
ガックリと項垂れる。
「………うひゃぁ!?」
項垂れた時に見えた自分の姿。
サンチェス国特有の薄い夜着だった。
身体のラインがハッキリ出ている。
自分だけだったなら慣れているから問題はない!
けれど今はラファエルが傍にいて、目が覚めれば私の貧相な身体がラファエルに見られるっ!?
急いでシーツをたぐり寄せようとして、後ろからヌッと腕が現れた。
………腕…?
「ひゃぁ!?」
そのまま腕が私の身体に回り、グイッと後ろに引かれた。
「………ん……おはよ…ソフィアぁ……」
あ、死んだ…
耳元で久々にラファエルのあの甘い寝起き声を聞かされた。
カチンッと固まってしまった私に後ろから、頬を擦り付けてくるの止めて下さい。
「……からだ…へーき……?」
………早く覚醒して下さいラファエル様っ!!
全身が熱い。
見えてる肌全て真っ赤になっていそうっ!!
「………ねつ、ある……?」
「な、ないですっ!!」
そして抱きしめている腕をどうにかして下さいっ!!
自信ない身体を思いっきり抱きしめないでぇ!!
普段着ならいいけど、夜着はっ!!
サンチェス国の夜着だけはだめぇ!!
ランドルフ国の夜着は分厚めだからいいけれども!!
これだけはだめぇ!!
「………本当に?」
グイッと顎を取られて、強引にラファエルの方へ向けられる。
………ちょっと痛い…
あ、ラファエルが目覚ましてる。
いつものラファエルがいる。
覚醒したんですね。
「ほ、本当っ!」
「身体熱いし、真っ赤だし」
「わ、私、夜着だからっ! 着替えをっ…!!」
ハッキリ言わなければ分かってくれないだろう。
ギュッと目を閉じて訴える。
「………」
へ、返事がないのが怖いんだけどっ!!
そろっと目を開いてラファエルを伺う。
「いい眺めだね」
「ちょっ!?」
じっくりと観察しないでよっ!?
目の前のラファエルは動じてもいない。
どうせ色仕掛けは出来ませんけれども!
好きな人がそんな反応薄いと、さすがの私もへこむよ!?
「成る程ね。サンチェス国の夜着は薄いね」
上から下まで何度も見ないでっ!!
私はラファエルの目を手で塞いだ。
ますます顔が赤くなって動揺する私と、冷静な普段通りのラファエル。
可笑しいでしょこれ!?
「………ソフィア、何するの…」
「い、いくらラファエルでも、ま、まだ早いと思うのっ!!」
「何が?」
「そ、それにっ! こ、こんな格好なのに、ら、ラファエルは普通にしてるし!!」
「………」
「わ、私に魅力ないと分かってるからっ! ラファエルにしたら勝手に恥ずかしがってるだけかもだけどっ! と、とにかくこんな格好でラファエルの前にずっといられないから着替えさせてっ!!」
………自分で言って悲しくなった。
じわりと滲んでくる涙。
恥ずかしいのと惨めなのとで、泣けてくる…
「………俺のソフィアは魅力的だよ」
「嘘っ!!」
「じゃぁなに?」
パシッと手を取られたと思えば、ドサッとベッドに押し倒された。
………え!?
お、押したお……!?
「俺が今すぐソフィアを襲えばいいの?」
思わず息を飲んでしまうほど、ラファエルの瞳に気圧された。
ギラギラと怪しく光る瞳は、今まで見たことがない。
艶めいている、という表現が1番合うだろうか…?
声を出したら最後、何をされるか分からない感じがする。
コクッ、とラファエルの喉が上下した。
「結婚するまでソフィアを襲わないように耐えている俺に、そういう事言う?」
「っ……」
「理性が吹っ飛んでいきそうだから、普段通りに見えるようにしてる必死な俺に、どうしろと?」
「ご、ごめんなさ……」
「いいよ? 今ここで奪っていいのなら」
自分の唇を舐めるラファエルに対し、ぶんぶんと首を横に振る。
「………どうせ結婚は確定なんだし、今でもいいんじゃない?」
また私は首を横に振る。
い、いくらなんでも婚前はダメだ!
王族として示しがつかない!
も、勿論嫌ではないよ!?
ラファエルしかダメだけど!
「なら、自分に魅力がないとか言わない。俺が理性を飛ばしたらずっとソフィアを離さない自信があるよ。潰してしまうまで。だから俺の理性を飛ばそうとしないように。俺はソフィアにしか魅力を感じないんだから。どんなソフィアでも、何時でも何処でも閉じ込めておきたいほどに夢中なんだから。分かった?」
「は、はいっ!」
ラファエルの手が離れ、寝室から出て行くのか扉の方へ歩いて行く。
不穏な言葉を言われたけれど、今はもう余計なことを言ってはいけないことは分かる。
「ソフィー、ソフィアが起きたから着替えさせて。さすがにこっちの夜着じゃ俺がもたない。部屋着に」
『はい』
扉越しにソフィーに私の着替えを頼んでくれるラファエル。
ドキドキする胸を押さえながら、私はシーツに身を包んだのだった。




