第609話 アレってなんだろう
「やっと見つけましたよ!!」
ラファエルと共に王宮へ帰っている途中、馬の足音が聞こえてきたと思えば、次々に私達の前に私の騎士達が姿を見せた。
「………多くない?」
悪いと思う前に、そう思って言ってしまった。
私の騎士4人の後に続く兵士達。
その数、数え切れないほど。
………彼らに見覚えありまくりなんだけれど…
「ああ、久々に脱走王女捜索隊に声かけたら全員来てくれたんだ」
アルバートがあっけらかんとして言った。
「………何? 脱走王女捜索隊って」
ラファエルが私を見下ろしてくる。
………そんな目で見ないで!?
どんな目だって?
呆れた目だよ!
「その名前止めてくれる!? って何度もお願いしてたでしょ!?」
ラファエルの目に耐えられなく、キッとアルバートを睨みつける。
けれど見られたアルバートはキョトンとしている。
巨体の男がそんな表情しても可愛くないから!
「レオポルド様命名だぜ?」
「お兄様に言うべき案件だった!?」
頭を抱えていると、周りを囲まれる。
「久々に全力出しましたよ」
「最近すっかり全力で駆けることなかったですからね」
「やっぱりソフィア様はソフィア様だなぁ」
「変わってなくて嬉しいっすよ!」
「そんなことで喜ばないでよ!?」
この周辺一帯に兵士達の笑い声が響く。
なんでそんなに楽しそうなの!
私を探すのがそんなに楽しいの!?
「ソフィアは兵士達に慕われているね相変わらず」
「………相変わらず?」
ラファエルの言葉に違和感があった。
兵士達との接点があっただろうか…?
「ほら。俺がサンチェス国に来たときに、ソフィアと訓練場でやり取りしたじゃない? その時にソフィアが差し入れして」
「………ぁ」
そういえばラファエルにも差し入れを運んでもらったんだった。
王女が荷物持つなと騎士達に怒られたっけ。
「彼らはランドルフ国に――ソフィアについてこなかったんだね。こんなに親しげなのに」
………ぁ~、うん。
ラファエルがちょっと怖い笑顔になっているのは、見なかったことにしよう。
「親しい、とは違うかも。基本的に兵士はお父様とお兄様のモノだし。まぁ、色々探させている自覚はあったから差し入れはしていたけれど…」
「ソフィア様は差し入れして機嫌取ってても、毎回抜け出すけどな」
アルバート煩い。
「ご機嫌取りというより……」
チラッとオーフェスに見られる。
………何よ…
「差し入れして情を持たせ、逃げおおせる時間をより多く持ちたかっただけでしょう」
ズバッと言われて私は顔を引きつらせながら固まった。
思ったことは1つ。
………何故バレているんだ…
だった。
けれどこのまましらばっくれていたら、兵士には誰にもバレないでいられる!
「ソフィア様のアレ美味かったよなぁ!」
「アレって、ああ! アレか! 確かに!」
「アレ、店で売ってるやつと味が違うのなんでなんだろな」
………あのぉ…兵士達…?
一応他国王太子がいるから。
合流したのだから、護衛に集中してくれないかな…
っていうか、アレって何よ。
何も特別な差し入れしてないですけれども?
「おいお前ら緩みすぎだ! 隊列組み直してラファエル様とソフィア様の護衛に集中しろ!」
オーフェスの声が響き、一斉に兵士達が隊列を整え、無駄話1つしなくなって周りが固められ改めて移動になった。
………オンオフの切り替え早すぎるでしょう。
いや、ラファエルがいるから、ずっとオンのままでいないといけなかったのだけれど…
変わり身の早さに私は苦笑し、ラファエルに改めて掴まったのだった。
っていうかオーフェスの命令は、隊長じゃなくなっているのにまだ有効なんだ。
「ソフィア、アレって何?」
「なんだろうね?」
「覚えてないの?」
「というより、普通の差し入れしかしてないよ?」
不機嫌なラファエルに、私は普通に返した。
今度は何が逆鱗に触れたのか。
私は内心混乱しながら馬に揺られていた。




