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第608話 何も考えずに




ラファエルが私を抱きしめている間にも馬は進む。

私は気が済むまで抱きついていた。

ラファエルの体温が心地いい。

馬の動くときの振動も一定で、私のことを気にしてくれているのかゆっくりだ。

馬も私を慰めているように感じる。

ダメだな私。

全然王女らしくない。

ラファエルに精霊を返すだけではない思いで王宮を飛び出した。

冷静だったなら、騎士を連れて馬で最速で向かっていたはずで。

今度は違う意味で落ち込んでしまう。


「ソフィア?」


私の雰囲気が変わったのに気付いたのか、ラファエルが覗き込んでくる。


「………ぁ……」

「ん? またなんか考えてる?」

「ぇ……ぅぅん。ラファエルの腕の中安心するな、とは思ってる」

「それは嬉しいね」


優しく笑うラファエルに、私は落ち込む心を浮上させる。

王女らしくなくても、ラファエルの隣は私のモノだ。

然るべき所で王女をやればいい。

今はラファエルとの2人の時間を大切にしたい。


「………ぁ、ラファエル…?」

「ん?」

「ランドルフ国の魔物は殲滅できたからサンチェス国に来れたんだよね……?」

「そうだよ」


頷くラファエルにホッとする。

私が倒れたから、途中で来させてしまったわけではない。


「良かった。ランドルフ国の民も無事ね…」

「被害はないね。騎士達も少し怪我したぐらいで、それもマジュ国の魔導士が癒してくれたし」


そうか、回復魔法で…

便利だよね。

私も出来たらよかったのに。

そうすればラファエルや騎士達が怪我しても回復してあげられる。

精霊は回復出来ない。

人が持っている治癒能力を向上させるだけ。

怪我を瞬時に癒し、なかったことには出来ない。

毒とかも取り除けないしね…


「………私も魔法使いたいな…」

「精霊の力をそれに似せるのではなくて?」

「うん。私が回復魔法を使えたら、ラファエルがもし大怪我しても助けてあげられるでしょう?」

「ソフィア…」


ラファエルが目を見開く。

………え…

私何か可笑しな事言ったかな…?


「ソフィアが可愛すぎて辛い…」

「………」


その台詞、今日だけで何回聞いただろう。

何処に可愛い要素があったのか全く分からない。


「………私はラファエルの思考回路が理解できなくて辛い…」


つい、ぽろりと言ってしまった。

ラファエルがまた驚き、私を凝視する。


「え? だって、マホウの力が欲しいのは自分のためじゃなくて俺のためでしょ?」

「………ぇ……ぁ、まぁ…」


間違ってはいないから頷く。

するとラファエルが笑顔になった。


「ほら可愛い」


………意味が分からない…


「俺のために力を持つって事は、俺を愛してくれているからでしょう? 俺がいなくならないように。俺を助けたいから」

「え……」


言われた言葉を反復し、私は一気に顔に熱が集まった。

そ、そう言われれば、そういう意味になりますね!!

顔を見られたくなくて、ラファエルの胸元に顔を埋めた。

くすくす笑っているからか、ラファエルの身体が馬の振動ではない揺れ方をしている。


「照れるソフィアも可愛いよね。ずっと俺にドキドキしてて欲しいな」

「私の心臓止める気!?」

「シンゾウ…? ………ぁぁ、心の臓の事? まさか。ずっと俺の隣で色んな顔を見せてくれればいいって思っているだけ。どんなソフィアでも、俺の大切な愛しい人には変わりないからね」

「~~~~~~~~~っ!!」


ますます顔を上げられなくなってしまう。

最近、なかったからですかね!?

ラファエルからの言葉が止まらない。

私まだ恋愛初心者!

慣れてないから!!

いつ慣れるか分からないけれどもっ!

心臓マジで止まるっ!!

ドキドキし過ぎて何も考えられない!


「………それでいいよ。俺の言葉でいっぱいになったら、余計なこと考えずに済むでしょ」


ラファエルが頭上で何か呟いた気がするけれど、心臓との戦いになっていた私の耳は聞き逃した。

何か言った…? と顔を少し上げればすぐにラファエルに唇を奪われ、もう1度聞くことは出来なかった。


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