第606話 俺だけ ―R side―
「――で?」
「え…?」
ソフィアが抱きついてきてくれたおかげで、俺の契約精霊である究極精霊の眷属達が戻ってきた。
自分の上着をソフィアの肩に掛けながら、俺はソフィアを見下ろす。
キョトンとしているソフィアも相変わらず可愛いよね。
「ソフィアの騎士が見当たらないんだけれども?」
にっこりと笑って聞けば、ソフィアが固まり、そっと視線を外した。
うん。
それだけで何があったか、どういう状況なのか分かってしまうよ。
説教追加かな?
「置いてきたんだ? って事はまたバルコニーから出てきたのかな?」
「………そ、れは……」
「うん」
「………はい…」
気まずそうに認めたソフィア。
「ダメでしょ。いくら急いできてくれたからといっても、今のソフィアは精霊の力使っちゃダメだし、自分の守りを出来ないのに無茶するのなら本当に繋ぐよ?」
「ごめんなさいっ!」
………うん、涙目のソフィアも可愛い。
素直に非を認めてくれるのもありがたいね。
前までのソフィアなら弁明しようとして反省の色が中々出なかったけど。
「ごほんっ」
あ、レオポルド殿を忘れてた。
「俺は部屋着ドレスのまま来たことを咎めるだけにするよ。他は纏めてラファエル殿に任せる」
「丸投げしないでよ」
「2人が同じ説教することもないでしょ。俺はマジュ国連中にも説教しなきゃだし?」
笑って言うレオポルド殿は実にいい顔だ。
相当怒っているね。
まぁ、当然か。
自国を脅かされたのだから。
「魔導士の罰はどうなるの?」
ソフィアがレオポルド殿を見上げる。
ギュッとまた俺に抱きついて来ながら。
………どうしたんだろ。
今日は珍しく甘えん坊だね。
すごく嬉しいけど。
こういうソフィア珍しいよね。
いつもなら恥ずかしがって抱きついてくることなんてないのに。
「まだ親父と協議中だよ。まぁ、かなり重い罰になると思うよ。だってこっちの民に――特産物に、かなりの被害を被ったからね。いくら元通りに戻せたからと言っても、王族に被害も出しちゃってるしね」
「王族に被害……?」
首を傾げるソフィアに俺は苦笑する。
レオポルド殿は呆れている。
「張本人がなんでそう無関係な顔しているの。自覚してるの? かなりの無茶して倒れたのに!」
「………ぁ……」
ハッとして視線を反らすソフィア。
本当に自分のことになったら無頓着なんだから…
「俺も止めなかったから同罪だけど、もう少し自分を大事にして。倒れる前に止めるように!」
「わ、分かりました…」
レオポルド殿に人差し指を突きつけられ、ソフィアは顔を引きつらせながら頷く。
………まぁ、多分ソフィアは同じ状況になったら後先考えずに、民のためと言いながら突き進んでいくんだろうけれど。
これはソフィアの精霊にも協力してもらわないとね…
「何処まで信用できるか分からないけど…」
あ、レオポルド殿も同じ事考えているようだった。
「取りあえずラファエル殿はソフィアと一緒に王宮へ帰って」
「レオポルド殿は?」
「ラファエル殿が公言したとおりに街を一通り見てくるよ。ソフィアは早く帰した方がいいし」
「お兄様、気遣い無用よ。一緒に行くわ」
「――ソフィア」
ソフィアの言葉ににっこりとまた笑ったレオポルド殿。
「ぴぇ…!?」
あ、その声も可愛い。
レオポルド殿の表情に怯え、俺に縋りついてくる姿も可愛い。
「ガイアス・マジュに言った言葉を、ソフィアにも言おうか?」
「す、すぐにラファエルと一緒に帰りますっ!!」
「分かればよろしい」
裏のない笑顔に変わったレオポルド殿は、そのまま背を向けて去って行った。
カタカタと涙目になって俺に抱きついているソフィアの頭を、よしよしと撫でてあげる。
………その涙目のまま見上げてくるの止めようかソフィア。
俺にも「越えてはいけない一線を越えてしまおうか…」と思ってしまう本能があるからね?
理性にも限界があるんだよ?
他人に泣かされるソフィアに少しイラッとしたけれど、それよりもソフィア可愛いって思う心が上回っている。
俺も重症だよね。
「………ねぇソフィア」
「ひっ……!?」
………なんで名前呼んだだけで怯えるの。
今何も含んでない顔を向けているはずなのに。
「泣かされるのは俺だけにしてね?」
「何の話!? そもそも泣かさないでっ!?」
「それはソフィア次第でしょう?」
意味が分かっていないソフィアに微笑み、その足を掬った。
そして俺が乗ってきた馬を繋いでいるところまで、ソフィアを抱いて歩いて行ったのだった。




