第605話 いや可愛すぎか ―R side―
魔物を全て消滅させた。
周囲に魔物がいないか調べてもらい、サンチェス国内の全ての魔物を消滅させたと確認が取れたらしい。
強行突破でテンソウマホウを駆使しながら、かなり急いで魔物の殲滅に当たったらしく、思いの外早く片付いた。
撤収指示をレオポルド殿が出しているのを尻目に、俺は空を見上げた。
「………う~ん……」
さっきのマモノの行動って…
『ユーグ』
『はい』
『いる?』
『いますね』
ユーグの言葉にピキッと頬が引きつった。
だよね。
でないと説明つかないもんね。
「ラファエル殿?」
「ああ、先に戻ってていいよ。俺はこの周辺回るから」
「じゃあ俺も一緒に回るよ」
う~ん。
レオポルド殿と一緒はなぁ…
………いや、まぁいいのか?
「じゃあちょっと付き合って。兵士はいらないよ」
「分かった」
レオポルド殿が手を振る。
疑問を持たないって事は、レオポルド殿も予想はついているのかな?
「ガイアス殿達も王宮へ。疲れたでしょ」
「いや、私達はまだ……」
「近くの街の被害がないか見てくるだけだし、力を使いすぎて立っているのもやっとの人達を連れ回すような非道ではないよ。それとも、途中で倒れて私達に運ばせるつもりかな?」
にっこり笑ったレオポルド殿にガイアス殿達が言葉を詰まらせる。
まぁ、正直いて欲しくはないかな。
「………分かりました」
ふらふらしながらガイアス殿達は去って行った。
兵士に囲まれて。
全員が見えなくなってから、俺は息を吐いた。
『ユーグ、どっち』
『左後方です』
『分かった』
俺は無言で方向転換する。
すると遙か先に木々の間からチラリと見える物にため息をついた。
そしてスタスタとその方向へ向かう。
その後をレオポルド殿が同じく無言でついてくる。
目的の所近くで立ち止まり、もう1度ため息をついた。
「ソフィア。頭は隠れているけど、ドレスの裾がはみ出しているから」
腰に手を当てて呆れた声で言うと、ドレスが揺れた。
多分、隠れているつもりだったんだろうなぁ……
すると、するするとゆっくり木の向こうにドレスが引かれ……
「って、ちょっと。バレてるんだから最後のあがきみたいに隠れようとしない。無駄だから」
レオポルド殿が言うと、恐る恐るといった風に顔を覗かせたソフィア。
今度は2人してため息をついた。
期せずして揃ってしまった。
「………王宮にいろって言ったよね?」
俺が言うと、ソフィアがぷくっと頬を膨らませた。
あ、可愛い。
………って、そうじゃなかった。
俺は怒っているんだった。
「ラファエルのせいだもんっ!」
いきなり責任転嫁された。
俺のせいってどういう事。
ソフィアが木からようやく離れて俺達の方へ来た。
「………ちょっと……なんで部屋着用ドレスなの」
「急いでたの!」
怒るソフィアに疑問だらけだ。
こっちが怒ることだと思うんだけどね。
寝たきりだったのにいきなりそんなに動いて…
また倒れたらどうするの。
ソフィアが立ち止まるまで待っていたら、そのままソフィアに抱きつかれた。
………ん?
「え……ソフィア? 嬉しいけど、それで説教はなくならないよ」
「違う!!」
「なんで俺が怒られてるの」
「ラファエルが眷属回収しないから私が飛び出してくるはめになったんでしょ!?」
「え……」
確かにマモノに囲まれてから気付いたけど…
精霊を返すためだけに無理してここまで来たの?
「俺のソフィア可愛すぎか」
「「いやなんで!」」
ソフィアとレオポルド殿に同時に突っ込まれた。
いやだって、俺の心配してここまで駆けつけてきてくれたんだよ?
惚れちゃうでしょ。
もう惚れてるけど。
「俺のソフィアが可愛すぎて辛いんだけど。なんで自分も辛いのに俺のために駆けつけてくれるわけ? 離せなくなるでしょ」
「離さなくていい――ってそうじゃなくて!! 危ないでしょ!? ラファエルが私のせいで怪我するなんて耐えられないわよ!」
怒るソフィアが可愛くて俺はソフィアを抱きしめ返した。
なんでこんなに可愛いかな。
「もう! 自分が危なかったのになんでそんなに普通にしてるの!?」
「………」
俺のために怒るソフィアは本当に可愛いな。
外出用ドレスに着替える暇もなく慌てて来てくれるなんて。
ソフィアに愛されてるって分かるよね。
「ラファエル聞いてるの!?」
「うん。聞いてる」
緩む頬を引き締められず、ソフィアがまた頬を膨らませた。
本当に俺のソフィア可愛すぎか!
そのままレオポルド殿に引き剥がされるまで、俺はソフィアを見下ろしながらニヤニヤしていたのだった。




