第604話 精霊の力と魔法の違い
暫く経ってようやく吐き気がおさまった…と顔を上げた。
ここ最近で一番気持ち悪かった気がする…
立ち上がって移動する。
「ねぇ風精霊、木の上からラファエル達の様子見えるかなぁ? 火精霊が囮になってくれてるから私は見つからないでしょ?」
木を指差して私の中にいる風精霊に問う。
『………何故木の上なのですか……木の陰からでもよろしいのでは…』
「あ……」
風精霊に突っ込まれ、私はスッと視線を反らす。
誰に見られているわけでもないのに。
いや、ついつい高いところから様子を伺うのが普通だと思ってしまう自分がいるんだよね。
精霊の目で視すぎているからかな…
うん、気を取り直して!
こそこそと森の中を見つからないように移動していく。
暫くすると戦闘する音と声が聞こえてくる。
「陣形が崩れている! 立て直せ!」
「何故か魔物が何もないところへ向かっている! 今のうちに背後から光魔法を!」
「ガイアス様! すみませんもう魔力がっ!」
「じゃあ下がっていろ! リーリエ!」
「はい!」
上空でいるだろう火精霊に向かって無意味に手を振り回す魔物。
お兄様が兵士に陣形を立て直すよう指示している。
ガイアス・マジュが魔導士に指示を飛ばすが魔力切れ。
指名されたリーリエと呼ばれた女が木の棒を掲げる。
……あれって杖かな?
「邪悪なる者を浄化する力を!」
おお…!
アレが呪文なのか!
ガイアス・マジュも言ってたと思うけど、あの時痛みに悶えてたから良く覚えていない。
リーリエが唱えると、杖の先からまばゆい光が放たれ、一直線に魔物に向かう。
一筋の光が魔物の背中を打ち抜き、魔物の身体に穴が開いた。
その穴からボロボロと魔物の身体が消滅していく。
う……エグい……
………っていうか、まさか1体ずつしか倒せないの……!?
効率悪すぎでしょう!?
唯一の対抗魔法じゃなかったの!?
もっとこう、広範囲魔法とかじゃないの!?
………あ、聖女ならでは、とか?
広範囲魔法使えて対処できるなら、そもそも聖女を召喚して対応してもらおうとか考えないか……
う~……でも焦れったい…!
火精霊が引きつけてくれているから、ラファエルに危険はないだろうけれど…
これじゃあ心配ないとは言えないじゃない…!
精霊に対応してもらいたい…
でもそうしたらラファエルにバレちゃう…
『………主の兄君にも怒られると思いますが』
『はっ!!』
お兄様を忘れていた。
慌ててお兄様の位置を確認する。
兵士達に指示をして魔物を囲ませている。
さすがお兄様抜かりありませんね。
しっかり主の仕事してらっしゃいます。
『………』
なんだか精霊から冷たい視線を受けているような気がするけれども、気にしない!
じ~っと様子を見ていると、ラファエルがユーグの力で魔物を消していっていた。
あ!
あの魔物は多分火属性で、水が弱点らしかったよね!
ユーグだけでも連れてきているだけ良かった!
これでラファエルは大丈夫だろう。
それにしても魔導士の1人(魔力がまだ残っている方)が、光属性じゃない魔法をぶつけているのだけれど、魔物に怪我を負わせても消えなかった。
やっぱり精霊の力と魔法の力は違うんだ…
どうしてなんだろう…
『………仮説を申し上げてもよろしいでしょうか?』
「え……」
風精霊の言葉に私は顔を上げた。
姿を現していないのに、つい風精霊を探してしまう。
隠れているのに声を出してしまったのに気づき、口を手で塞ぐ。
『分かるの?』
『あくまで仮説です。仮説、ですよ? それが正解かどうかは分かりませんからね』
そ、そんな念押ししなくても…
どれだけ私、頭弱い人間だと思われているの…
『あの者達が使っている魔法の力の流れを観察したところ、体内の力――彼らが魔力と呼んでいる力をあの杖を媒介にし、外部へと放出しているようです』
『だからあの人は魔力を使い果たしたから、魔法を使えなくなったのよね?』
私はガイアス・マジュに下がるよう言われた魔導士を見る。
『ですから、疑似力、と表現したら1番分かりやすいでしょう』
『疑似……偽物……?』
『はい。そして私達の力は自然そのものの力です』
つまり……
『自然発生する力とは異なり、人の作り出した火や水では魔物を消滅させることが出来ない……?』
『あくまで仮説ですが』
まだ言うか!
憶測であって、正解かどうか分からないっていうのは理解してるよ!!
『じゃあ例えばマッチとかで火を付けて、風で増幅して魔物にぶつけたら消滅するかな?』
『………』
あ、冷たい視線を向けられている気がする。
すいませんごめんなさいバカなことを言いましたもう言いませんっ!!
私は黙ってラファエル達の戦いを眺めることに専念した。




