第601話 責任は ―R side―
「ソフィアの様子はいつもどおりだったけど、起きた直後の様子はどうだったの」
馬に乗って俺とレオポルド殿、そして騎士と兵士達は王宮を出た。
最短距離で行くために、馬の扱いが上手い者と腕の立つ者が中心だ。
先頭を救援を求めてきたミュールが走り、その後ろに俺とレオポルド殿、その後ろに騎士と兵士達の順。
話しかけられ、チラッとレオポルド殿を見ると顔色は良くなかった。
「顔色は良くなってたけど」
ソフィアの部屋ではいつもどおりに務めようとしていたのだろう。
ソフィアに心配かけないように。
病み上がりのソフィアにあんな顔色悪いレオポルド殿を見せたら最後、自己嫌悪に陥るだろう。
「………」
彼の判断は一般的には間違ってはいないと思う。
あくまで一般的には。
それはともかくレオポルド殿はちゃんと休んだのだろうか。
そちらも心配だ。
「いつもどおりだったよ。俺に知られなきゃ説教はない、って自信満々だったね」
今思い返してもつい眉間にシワが寄ってしまう。
なんでそういう判断をしてしまうかな…
「ははっ。どこから来るのその自信」
俺の言葉にレオポルド殿は笑い、ようやく少し肩の荷が下りたようだった。
レオポルド殿もソフィアの力を借りると決めた時点で、ソフィアが倒れた責任は決して軽くない。
しかも大事な妹なんだし。
「調子に乗らせたらダメだと思って、ちゃんと叱ったよ」
「そう。ありがと」
少しレオポルド殿の口角が上がった。
すぐには難しいと思うけれど、早く元のレオポルド殿に戻ればいいと思う。
「………ソフィアには言ったの? 何日目覚めてないか」
「言ってないよ」
まだ、ね。
「そう。ありがとう」
何故お礼を言われるのか。
チラッとまたレオポルド殿を見る。
「自分が無理したせいで周りを心配させたなんて、ソフィアが知る必要ないでしょ」
「………言うことで牽制することも出来るけど? 無理したらそれだけ目覚めず、周りを心配させる。だから無理せず倒れる前に止めろと」
ソフィアは自分を軽く見すぎている。
大事な存在だと何故分かってくれないのか。
「そうなんだけどね」
レオポルド殿は後方の王宮へ視線を向ける。
「俺もソフィアも、サンチェス国のことになれば、多分倒れようがどうしようが、やれることならやる。倒れたら倒れたときに考える。そう思ってしまうと思うんだよね」
「………」
それは……俺も分かるけれども。
「ソフィアが目覚めないと知って、俺は………倒れる前に止めることが出来なかった事に対して、悔やんだんだ」
「それは…」
「ソフィアに力を使わせなければ。………ラファエル殿には悪いけれども、そう思ったことは一瞬も無かった」
俺は言い返したいけれども言葉が出なかった。
王族故に、持っている力を使わない選択肢はない。
それが民を救うのだから。
結局俺は口を閉じた。
飲み込む言葉など浮かばなかった。
「………ごめん」
「………いや、分かるから謝らないで」
呟くように言われた謝罪に、俺は首を横に振るしかなかった。
「レオポルド殿は加減が分からないから、ソフィアを止めるのは無理だっただろうから、それも気にしなくていいよ。気にしなきゃいけなかったのはソフィア自身と精霊だよ」
真っ直ぐに前を向いて言うと、隣から視線を感じる。
レオポルド殿が俺を見ているのだろう。
「心配かけたのは事実として、帰ったらソフィアに伝えるよ。そうしないとソフィアは絶対に倒れるまでやって学習しないから」
俺が断言すると、隣から吹き出す声が聞こえる。
「あははっ。確かにね」
いつもどおりの笑顔で笑うレオポルド殿が視界に入った。
うん、それでいいよ。
悪いのは力加減を怠ったソフィアで、それに関してレオポルド殿が責任を全て背負うのは違うから。
「とっとと終わらせてソフィアを説教しに行こうか」
いつもの調子を取り戻したレオポルド殿に笑い返し、俺達はそれ以上その話題を口にすることはなかった。
馬を走らせながら現場についたときに取る連携の確認と指示を行った。




