第572話 お仕置きね
「………で、これなのね」
私は行儀悪く机に頬杖をついて苦笑する。
「申し訳ございません!!」
「ごめ~んソフィア様~」
アマリリスが泣きそうな顔で頭を下げ、ジェラルドはのほほんといつものように笑ったまま詫びる。
うん。
反省の色が1つもないのに、彼の表情のせいかな?
叱る気が起きないのは。
「どうなってもアマリリスの食事は美味しいから食べるけれども。そもそも私残すこと出来ないし。でもねジェラルド、食事には目で楽しむ物でもあるからね? ぐちゃぐちゃな盛り付け見たら食欲は失せるからね」
「でも食べるんでしょう?」
「食べるけれども、だ。それとこれとはまた話が別なんだけど」
叱る、ではなく注意をするけれど、全く以てジェラルドは堪えてない。
よく分からないと首を傾げる方が私には分からない。
私は手で顔を覆った。
「………とにかくアマリリス」
「はっ、はい!!」
「今度はオーフェスについて行ってもらって、ラファエルの食事を用意し直してきて。さすがにこれをラファエルには出せないわ」
「畏まりました!!」
慌てて出て行くアマリリスの後を、静かにオーフェスがついていく。
「ぶぅ! ソフィア様! アマリリスは俺の婚約者だよぉ? なんでオーフェスなの」
「貴方自分が運んできた食事を見直してから言いなさいよ! こんな物王太子に出せないでしょうが! 下手したらクビどころか首跳ねられるわよ!」
「え~それは困る~アマリリスと結婚しなきゃだしぃ。アマリリス似の女の子欲しいぃ」
「………」
思わず怒鳴ってしまったけれど、ジェラルドは気にするところが違う!!
「ソフィア様、ジェラルドに言うだけ無駄だぜぇ?」
「アンタもね!!」
「え!?」
「なんでそこで驚くのよ! 一緒にされたくなければ敬語使えるようになりなさい!!」
他人事のように言うアルバートにカチンときた私は悪くないはずだ。
相手するにも疲れる…
私はラファエルが来る前に、ぐちゃぐちゃになった食事を口に入れる。
ラファエルの分と2人分か。
太るなこれは確実に。
黙々と食べていると扉が開いて、視線を向けるとアマリリスが気まずそうに立っていた。
………アマリリスがノックし忘れる…?
首を傾げると、扉で死角になっていた人物が現れる。
………うん、分かってた。
ノックしない人間なんて1人しかいないものね。
「アマリリスにもう1度用意して貰うなんて可哀想でしょ」
「………普通は作り直させるでしょ」
「でもソフィアが食べてるのに俺だけ食べないのは違うでしょ」
「ラファエルは王太子でしょ。それにサンチェス国民とも違――ぁ」
ラファエルは素早く私の対面に座って、2膳とも私の前に置いてあったのに1膳を自分の方に引き寄せ食べ始める。
「味は変わらないよ。でも、ジェラルドには何か罰を与えないとね」
「え~!?」
「いくら何でもこれは酷いよ」
苦笑しながらラファエルはジェラルドを見る。
「主人に対しての不敬に当たってしまうよ。1度罰を受ければ懲りるでしょ」
「………」
いや、懲りないと思うな…
そんな思いが顔に出ていたのか、ラファエルが苦笑する。
「ソフィアが優しいのは分かるけど、ケジメはケジメで線引きしなきゃね。アルバートの態度に関しても」
「なんで俺にまで飛び火してくんだ――すんません!!」
ラファエルにまでタメ口になりそうな勢いのアルバートに対して、鋭い視線を向けた。
すぐさま口を閉じるアルバートに、隠すことなくため息をつく。
「今はマジュ国の人間がいる。彼らに礼儀をわきまえさせようとしているのに、ソフィアの騎士がそんなんじゃ示しが付かないでしょ」
言っていることは尤もで、私は頷く。
「マジュ国の人間がこの国にいる間、アルバートとジェラルドをソフィア専属から外す。他の騎士達と一緒の予定で動くように」
「ええ!?」
「んな!?」
2人はそれぞれの反応を見せた。
ラファエルは涼しい顔で食事を続けている。
アマリリスはハラハラしながら立っているけれど、もうラファエル食べちゃったしね…
オーフェスはいつの間にか、静かに定位置に戻っている。
「臨時を寄越すからソフィア宜しく」
「分かったわ」
「ちょ、ソフィア様!?」
「止めてよぉ!!」
「嫌よ。貴方達の反応を見る限り、適切な処分じゃない。せいぜい主人を敬えるようになりなさい」
私は首を横に振る。
嫌そうにしている2人には丁度良い機会だ。
「敬ってるだろ!?」
「そうだよ!!」
「何処がだ」
2人が必死に訴えるが、突っ込んだのはオーフェスだった。
「煩いので放り出しましょう」
「ちょっ!?」
「離してよぉ!!」
「2人ともしっかりやってきなさいね」
ひらひらと私は笑いながら見送った。
オーフェスも同じく出て行ったところを見ると、訓練場に放り込んでくるのだろう。
「これで少しは成長――するかなぁ?」
「期待しない方がいいよソフィア」
「だよね」
2人して苦笑しながら、食事を続けたのだった。




