第483話 優先すべき国は
長期休暇になり、私の生活は変わった――はずもなく。
相変わらずラファエルと一緒でないと王宮から出ることはない。
ラファエルが仕事中は部屋で暇つぶしする。
今日も同じだと思っていた。
「ソフィア」
「あ、ラファエル。お帰り」
昼食を取ろうとアマリリスに用意してもらっていると、ラファエルが戻ってきた。
「一緒に食べれるの?」
「あ、うん。食べる」
ラファエルが向かい側に座って、アマリリスが慌てて彼の分も用意するために出て行く。
「違った?」
「違わないけど、目的はこれと後1つ」
これ、と称された書類を見せられ、私は目を通していく。
「………メンセー国経済状況」
手に入るなら、とラファエルにお願いしていたデータだった。
「ソフィアの言ってた通り、ランドルフ国が衰退していった時期から、段々うちとの取引が無くなって、右肩下がり。まぁ、うちだけが原因ではないけどね」
「………他国の人達も購入してる数も金額も減ってきている」
内部情報だろうデータ。
詳しすぎる…
門外不出だろうに…
………影に資料写させてきたのかしら…
「うちは経済的に購入が減るのは分かるけど、他国の購入数が減ってるのは可笑しいね…」
どの国も衰退していないはずだし。
「ちなみにサンチェス国の購入は同額、現在は少しずつ増額になっているみたい」
「え……? なんで?」
「ソフィアの店のおかげでしょ」
「………ぁ……」
私は視線を反らした。
………もう私の手を離れすぎて、店の内情を知るよしもない。
「でも、各国の減額した分を補えるはずもなく、メンセー国は衰退をこれからも余儀なくされるだろうね」
アマリリスが入室してきてラファエルの前に食事を並べる。
2人揃って食べながら会話を続ける。
「………ここ数ヶ月の落ち込み方は……気になるね……」
今まで徐々に下がっていたものが、いきなりガクンと半分程に下がっている。
「そこなんだよね。だからカイ・メンセーはソフィアに縋りついてきたんだと思うよ」
書類をラファエルに返却する。
「………国の存続、危うくなるレベルじゃない…?」
「そうなんだよね。メンセー国はうちより国土広いから、これだけ下がればもう国庫を開けるしかない。それも、長くは持たないだろうね」
「………そういえばカイ・メンセーは?」
「帰ったよ。長期休暇入ってすぐぐらいに」
早いな…
よっぽど堪えたのかな。
「………ちょっと面倒くさくなるだろうけれどね」
「え?」
「メンセー国王が立ち上がれば、こっちの国の立場の方が低いから協力せざるをえないよ」
………ぁぁ、国王が出てきて協力をお願いさされたら、引き受けないと今後の行商が出来なくなるかも。
でも、拒否できると思うけど…
「………でも、メンセー国と同盟関係じゃないでしょ?」
「そうだね」
「メンセー国王は上から言うことは出来ないから、お願いされてもこっちが有利な条件で引き受けることも出来るよね?」
「………ソフィア」
「何?」
「………そういう時のソフィアって、容赦ないよね…」
「だって、うちとランドルフ国民が不利益を被ることは許容できないでしょ?」
ラファエルに苦笑される。
サンチェス国みたいに同盟国なら対等の立場だけれど。
同盟国じゃない国にお願いに来るのであれば、上から目線は論外。
下から来るなら快く引き受けることもあるかもね。
………ただ…
「………サンチェス国に来られたら厄介なんだよね…」
「ソフィア? サンチェス国にって――ぁ…」
ラファエルが私の言葉を理解し、ハッとして私を見てくる。
私は苦笑して返す。
「サンチェス国とメンセー国は同盟国。メンセー国王がお父様に助けを求めれば、私はお父様の命を受けた瞬間に協力せざるをえない」
カイ・メンセーがサンチェス国に行くという選択肢がなかったことは幸いと言えるのか言えないのか…
でも私が断った件が伝われば、私が拒否できない相手に協力を求められる可能性がある。
カイ・メンセーが私にアイデアを出せと願ったのは、個人対国の事だった。
だから断れたんだけれども。
「………そっちか……」
「そっちなのよ」
「………切羽詰まってるから、行きそうだね」
予想は外れて欲しいけれども、サンチェス国としては同盟国を失うことは避けたいだろうから、お父様は請われれば応じるだろう。
「………もし命令されたときの案はあるの?」
「あるよ」
「あるの!?」
驚くラファエルに頷く。
だって、この国でしようと思ってたんだし。
「元々ランドルフ国でやれたらやろうと思ってたことだけど。ここには専用の道具から用意しなきゃならないから長いスパンで考えてた」
「え!? それは困る! うちでやる!!」
「へ?」
「必要な道具書き出して!!」
ラファエルが紙を出してくる。
唖然としているとラファエルが顔を近づけてきた。
………って、近いっ!!
「………ソフィアの優先国はどこ」
………目が据わってて怖いよラファエル…
「ら、ランドルフ国とサンチェス国です……」
「だよね」
ニッコリと笑われ、私は言われるままペンを取ったのだった。




