第425話 知らぬふりは難しい
夜、ラファエルが帰ってきて、夕食を一緒に取った。
清々しいほどの笑顔で、報告を端折られましたけれども。
「聞く以前の問題だったから、詳しく聞かずに追い返したよ」
結果はそうだけれども…
どうしてそうなった、っていう説明がない。
やっぱり覗き見していて正解だった…
まぁ、実際に私が動くことはないから、聞かせる必要ないというラファエルの考えは分かるけれども…
ここで納得しそうになったけれども、私は知らない事になっているから、聞かなきゃね。
「………えっと……聞く以前の問題、というのは?」
首を傾げて聞くと、ラファエルが苦笑する。
まぁ、あれだろうけれど…
「無償でソフィアにアイデア出させようとしててね」
「………無償って……それはさすがに……」
「ね。他国の事に首を突っ込めということだからね。何の見返りもなしに引き受けることは出来ない。ソフィアも個人的に近づいてきても、国のことに関することでも、一切聞く耳を持ったらダメだよ」
「………そうですね」
ラファエルが滅茶苦茶真剣な顔をしているので、思わず苦笑いしてしまう。
それがラファエルに誤解を与えたようで…
「何? いくらソフィアが優しいからって、無償で引き受けるって言わないよね。国に関することなんだから」
「分かってるよ」
「………本当に?」
疑うなんて酷いな…
私は聖女とかじゃないよ。
「いくら私でも自国のサンチェス国、そして婚約者のラファエルと、婚約者の国であるランドルフ国民に対して以外で、何の見返りもなく手を貸すわけないじゃない」
「………そう」
………納得してないんですけど…
顔が不満げだ…
「………でも、メンセー国の経済が落ち込んでくると、困ることになるかもね」
「生地が入手困難になる可能性が出てくるね。売れなきゃ製造する量を減らして、売値を上げざるをえないから」
アマリリスが煎れたお茶を手に取りながら、ラファエルの言葉に返す。
「あ、これ緑茶だ」
「はい。昼間届きましたので」
「そっか」
緑茶久しぶり~っと嬉しくて笑うと、視線を感じる。
ラファエルに視線を戻すと、ジッと見られていた。
「な、何?」
「ああ、いや。やっぱりソフィアは商売事に関して理解が早いなと思って」
………現代っ子ですからそれぐらいは……
よく店とか行くと余っている在庫は値下げしてるし、その後在庫が見てすぐに分かるぐらいに少なくなって、徐々に希少価値の為か値上がりするよね。
でも突発的にまとめて買う人って、その少ない在庫を買い占めて。
あれ、迷惑だよね。
欲しい人全員の手に渡らないから。
店も店で大量に在庫持てない所もあるから…
全て環境に左右されるからねぇ…
「気にはなるけど、無償で引き受ける気は無いよ。施設とかに慈善事業で施しするのとは訳が違うし」
ここでゲームとかのヒロインは無償で助けるだろう。
でも私は、「困っている人がいれば助けてあげるべきです! 見返りなんていりません!」なんてことは言えない。
………どこの聖女だよ…って。
私は私の幸せとラファエルの幸せ、そしてサンチェスとランドルフ、両国の民のことで手一杯なのだ。
無償で助けて両国民が幸せになれる?
人は食べなきゃ生きていけないのだから、私達王家の人間は、清廉潔白ではいられない。
ヒロイン役はどうぞ他の方がおやりください。
「分かっているならいいよ」
ラファエルもアマリリスにお茶をもらい、口を付ける。
「………ソフィアに近づかないように命じたけど、接触してくるかもしれない」
「まぁ、当たり障りなく話はして、相手にはしないけど……見返りを持ってきたらどうするの?」
「内容によるね。ソフィアの案を出させる価値のある、同等の見返りなら考える」
「………ラファエル……がめつい…」
「俺はソフィアの為にも、同盟国であるサンチェス国の為にも、そしてもちろんランドルフ国の為にも、他国に下に見られ続けるわけにはいかないから」
そう言ったラファエルは、すごく頼もしかった。
やっぱり、ラファエルは王の器だと思う。
私は微笑んで、そっとカップに口を付けた。




