第412話 あれ? ちょっとヤバい?
『『嫌です。何故ソフィア様(姫様)から離れなければならないのですか!』』
と、拒否したソフィーとヒューバートを、精霊の力で強引にガルシア公爵領行きの、ラファエルが手配した馬車に押し込み見送った。
学園では友人のマーガレットの願いを叶えたいしね。
………今だけの付き合いかもしれないし、仮でも友人のために出来ることはしなきゃね。
私はクルッと身体を回転させて、自分の後ろに控えていた護衛3人に微笑みかける。
「じゃ、みんなお願いね」
パンッと手を合わせながら。
久しぶりだなこれ。
手を合わせて、首傾げておねだりポーズ。
「………本当にやるんですか?」
うん。
オーフェスにジト目で見られた。
効いてないし、私主なんだけどな!!
「あら。ちゃんと説明したじゃない」
「俺ら許可してねぇよ!!」
「アルバート、言葉遣い」
「う……」
「わーい!」
顔を顰めるオーフェスとアルバート。
ジェラルドは楽しみらしい。
「そんな事言うと、ジェラルドと2人でやるんだから! ね、ジェラルド!」
「うん、ソフィア様遊ぼー!」
「はいはい」
さっさと部屋に戻る私と笑いながらついてくるジェラルド。
後の2人は慌てて追ってくる。
………ま、どっちみち1人でもやるつもりだったし。
でも、ラファエルが怒るから護衛外せないし。
私も護衛が離れるのはまだ不安だし。
「さて」
部屋に戻るとフィーアが準備して待っててくれる。
「さすがフィーア」
「ありがとうございます。姫様の無茶はいつものことですから」
………あれ?
余計な一言が聞こえたような……
フィーアの笑顔が誰かさんと被って怖いんですけれども?
「貴方達はこちらです」
そう言ってアマリリスが3人を連れて出て行った。
「本当にされるんですか?」
「するよ」
「………ラファエル様の許可は? というか、計画を話しているんですか?」
「………え?」
「………え……」
フィーアに聞かれて私は目を見開く。
そういえば、ラファエルに報告……というか、相談してない……
「………ぁ、忘れてた……やっぱり……マズい……?」
「言ってないんですか!?」
「う、うん…」
「………はぁ……」
………フィーアも主人の前で繕わなくなってきたね。
別にいいけど……その方が親しみがあって…
「………とにかく今からでは代わりは見つからないでしょう。着替えて下さいませ」
「う、うん。ありがと」
フィーアに着替えを手伝ってもらって、私は用意していた服に着替えた。
「ま、まぁ、うん! ラファエルの仕事が終わるまで、バレないように行動するということで!」
「………無理だと思いますが。以前のラファエル様ならともかく…」
「しょ、しょっちゅう王宮歩いてるわけじゃないから、最近の終了時間に戻ってくれば大丈夫!」
「………その自信は何処から…」
呆れられながらも、私は帰ってきた護衛3人と共に、再び部屋を出た。
歩いて行くと、見慣れた光景が視界に入ってくる。
「そこの貴女」
「え……あ!? は、はい!!」
「洗剤付けすぎて逆にガラスが曇ってる。ちゃんと適量でやって」
「も、申し訳ございません!!」
「貴女は花の飾り付けがなってないわ。客観的目線でどう見えるか考えて」
「は、はい!!」
私は視界に入ってくる侍女達の仕事ぶりを見て、口を出していく。
「ああ、貴女の手つきは良いわ。そのまま続けて」
「あ、ありがとうございます!」
注意するときは注意。
褒めるときは褒める。
飴と鞭って良いよね。
私はサンチェス国で飴を与えることはなかったけれど。
「………これ、俺らが着替える意味あんのか?」
「………ただの趣味だろう」
オーフェスはよく分かってらっしゃる。
私はチラッと後ろを見る。
護衛達が目立たないように、使用人の服を着せてみました。
それぞれ違った意味で似合ってる。
オーフェスは熟練、ジェラルドは初心、アルバートは……うん。
ちなみに私が着ている服は侍女服だ。
歩いてても王女だとは気付かれにくいでしょう。
近づくのに都合が良いのよね。
直前まで侍女達は気付かないから。
本日私はソフィー代行でございます。
順調に侍女達を指導していってると、ふいにポフッと肩に手を置かれました。
「?」
疑問に思って振り返るとそこには……
「………ぁ……」
「………何をしているのかな?」
ニッコリと笑ったラファエル様と、手を額に当ててため息をついているルイス様がいらっしゃいました。
パッと頭を下げて周りの侍女達と同じ態勢になる。
サァッと血の気が引いていく。
………なんでこんな時に限って、出歩いてるんですか!?
で、でもでも、ソフィアだと気付いてないかもしれないし!!
顔見られたの一瞬だと思うしね!
「顔を上げて?」
ひぃ!?
ダラダラと冷や汗が流れ、止まることを知らない。
戸惑っていると、顎を取られクイッと強引に視線を合わせられた。
「………こんな可愛い侍女を雇ってたなんて、知らなかったなぁ? ソフィアもソフィーも私に黙って……酷いなぁ?」
真っ黒な笑顔を向けられた私は、動揺する心は見せないようにニッコリと笑顔を作った。
冷や汗だらけですけれどね!
悪あがきしますよ!!
い、いつもしてない厚化粧してるし!
女は化粧で変わるから、ラファエルも気付いてないかもだし!
「お、王太子様の目に映るなんて、お、畏れ多いです! お、お手をお離し下さいませ。王太子様のお手が汚れてしまいます!」
「………へぇ」
ラファエルの顔が段々近づいてきたと思えば、フッと耳に息を吹きかけられた………!?
「ひゃぁ!?」
思ってもみなかったことをされ、私の腰は一瞬で抜けた。
その場でへなへなと座り込んでしまう。
「ソフィア。夜にたっぷりと言い訳を聞いてあげるよ」
そう言って颯爽とルイスと共に去って行った。
「~~~~~~~~!!!」
私は耳を押さえ、顔を真っ赤にしてその場から暫く動けなくなっていた。
悪あがきするんじゃなかった…
と、しばらく顔を赤くしたまま涙目でふるふると震えているしかなかった。




