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第397話 人材は身近にいますよ




トントンと書類の束を机に押しつけ、整える。


「じゃ、それでよろしくソフィア」

「はい」


私はラファエルに報告した侍女の体制に許可を貰い、一先ずホッとする。

特に指摘されたことはなく、ラファエルは私の報告を笑顔で頷くだけだったので、ルイスが半目になっていたけれど。

けれどルイスにも指摘されなかったために、ルイスも私の案を支持してくれたと勝手に解釈。


「でも、いいの?」

「………何がでしょう?」


許可してくれたのに、何か気になることでもあるのだろうか……?


「ソフィーを筆頭侍女に任命して」


チラッと私の後ろに視線を向けるラファエル。

その視線を追って、私は振り返る。


「ソフィー、何か問題でもありますか?」

「ありません」


視線を落としたまま、ソフィーが即答する。

今回、ランは筆頭侍女から外れてもらう。

消去法でなった地位で、彼女にはまだ早すぎるから。

年齢的に言えばソフィーの方がずっと若くて、ソフィーも早いと言われるかもしれないけれど、今のところソフィー以上の侍女を私は知らない。

ソフィーの言うことを素直に聞くことは屈辱になるかもしれないけれど。


「いや、ソフィーじゃなく、ソフィアが、だよ」

「え……?」

「今までソフィアの侍女はソフィーを中心にして動いてたでしょ。ソフィーが筆頭侍女になったら朝一は侍女へ指示しなきゃいけなくなるから、ソフィアの身支度の時にいないでしょ」

「フィーアがいますが」

「それに、すぐに用を言いつけて対応してたのもソフィーでしょ。見回りもしないといけないからソフィーが常に付いていないよ」

「アマリリスもいますが」


ね? と視線を横にずらしてソフィーの隣にいるフィーアとアマリリスを見れば、2人とも頷いてくれる。


「はい。私達がソフィア様のお世話を責任を持ってさせてもらいます」

「………本当に大丈夫?」


心配性のラファエルに思わず苦笑してしまう前に、困った顔で笑い、首を傾げる。

ここはラファエルの執務室だから、ラファエルの護衛騎士も部屋の中に居るから王女仕様だったのに、崩れてしまいそうだ。


「ラファエル様、わたくしは元々やっておりましたよ」


何を、と主語を入れずとも通じるだろう。

そう思って言った言葉に返ってきたのは、ラファエルの苦笑だった。

それじゃダメじゃないか、という声が聞こえそうだ。

チラッと私が護衛騎士を見ると、ラファエルが気付いて合図し、私のことを知らない騎士達が退出していった。

おお…これって以心伝心っていうのかな?


「………で?」

「え……ああ。それに常にソフィーが私に付いていない事ないよ」

「………じゃあ見回りは?」

「快く引き受けてくれたの。というか、彼女たちからやらせてくれと言ってきたのだけれどね」


人差し指をクルッと回すと、数人の精霊が姿を現してくれる。


「………ぁぁ、成る程」

「彼女たちは姿を消せるからね。監視役には適任だし。それにソフィーが見えないだけでも効果あると思うよ。それで本当の本質が見えるから、こっちとしてはやりやすいのよ」

「………ソフィアもその辺容赦ないよね」


ラファエルの言葉に、思わずニィ…と笑ってしまった。

ヒクッとラファエルとルイスの頬が引きつる。

あ……やってしまった…

急いで繕ったけれど、見られてしまったことには変わりなく…

王女が絶対にやっちゃいけない顔を見られました…


「………どうしたのソフィア」


ぁぁ…!!

引かないでラファエル!!

笑顔を作ろうとして失敗しているラファエルに、申し訳なくなる。


「いえ、なんでもありません」


急いで取り繕うと、ラファエルにニッコリ笑って促されました。

………うん、目が笑ってない。

秘密にするの? と暗に聞かれている…

ため息をついて持っていた書類の束を膝に乗せて、両手を上げる。


「サンチェス国でのやり方でいくから、容赦はしないよ。使えない侍女はいるだけ国費の無駄。無駄なお金を使う余裕はないから、早急に立て直して使えない侍女から使える侍女に総入れ替えする」

「………そう簡単に入れ替えできる?」

「出来るよ」


言い切った私に、ラファエルが眉を潜めた。

そんな簡単に入れ替えられたら苦労はない、と言いたいのだろう。


「現在の侍女の選定期間は……」


チラッとソフィーを見る。


「3日もあればおつりが来るとは思いますが、まぁ、チャンスを与えて7日、といったところでしょうか」

「時間かけすぎ。3日でやって」

「はい」


私はソフィーの提案を却下し、指示した。


「ソフィア」


ラファエルに少し咎められるような声をかけられたけれど、私は首を横に振った。


「こういう事を長引かせても、いいことはないよ」


私は改めて書類を手にし、立ち上がった。

私が退出することに気付いたソフィー達が、頭を下げて扉を開いた。

扉の向こうに先程出て行った騎士が待機しており、人払いはもういいと判断して入室してくる。


「話は終わってないよ」

「………ぁぁ、そうでしたわね。使えない者を切った後は――彼女たちと入れ替えたらいいんですよ」


まだ姿を現したままの精霊を見ると、ラファエルとルイスが目を見開いた。

騎士達は彼女達がいつ入室したのか分からず、少し険しい顔をしていた。


「優秀な人材は常に傍にいますよラファエル様」


遠回しな言葉を伝えると、ラファエルは暫く考えてハッと私を見た。


「では、失礼致します」


私は礼をしてソフィー達と共に、執務室を後にした。

精霊達は昔、共存関係で常に人に見えるように姿を現していた。

彼女たちの願いは昔のように共存できる関係に戻れること。

見放そうとしていたけれど、私とラファエルと契約をしてくれたのだ。

互いに手を貸し合える関係、その望みは捨てられていない。

期待されているのだから、それに応えたい。

王族だけの契約、と変更しても、常にこの世に存在している者達だ。

私達と共に生きたいと望んでいる精霊達を、姿を隠すのではなく共に働くという形でもいいのではないか。

ずっと、ではないけれど、使えない者を粛清し、使える人が育つための繋ぎとしてでもいいからと、彼らが手伝いたいと言っているから手伝ってもらう。

そして私が侍女として彼女たちに働いてもらうのだから、ラファエルの方も出来ると思うんだよね。

精霊に領地管理を任せること、ラファエルの仕事をサポートする臣下を作ること、を。

精霊達が私の前に立ったと思えば、満面の笑みで微笑み頭を下げて影が薄くなった。

他の人に見えないように姿を消したのだろう。

………私には見えたままだけれどね。

苦笑して私は書類の束をソフィーに渡しながら、侍女執務室へと足を向けた。


「冷酷無慈悲王女の復活ですか?」

「その異名、返上できる日は来ないかもね」


サンチェス国王宮の影の選定者の私は、粛清された侍女達にそう呼ばれていたそうだ。

私に頭を下げてきてこれからは真面目に働くと訴えてきた侍女も容赦なく切ってたから、悪意を持って異名を付けられても気にしない。


「だって、真面目にやらなかった方が悪い。民の税で生きている者が、民のために働かないのなら要らないもの。お金も時間も無駄」


フッとソフィーに笑ってみせる。


「………姫様って、そういう人だったんですね…」

「………私を助けてくれたときとは、別人です…」


フィーアとアマリリスが呟くけれど、彼女たちの罪と、侍女の罪は根本的に違うから。

彼女たちは民の税を蔑ろにする、民を苦しめる罪は犯してない――ん?

フィーアは貴族としての自覚が足りず、民が苦しんでいるのに何もしなかった侯爵を諫められず、更に私を害そうとした。

アマリリスは精霊の力を使い、私を害そうとして行った行為で、危うく民に犠牲が出るところだった。

………改めて考えれば、2人ともアウトじゃね…?

私に危害を、ってことで私への罪でって事しか頭になかった。

これって……いやこれ以上考えないでおこう。

なんか変な方向へ行っちゃいそうだ。

これからよ、これから!

………何故かな?

ソフィーから冷たい視線を向けられている気がする……

………一応、私の侍女になってから民に迷惑はかけてないけど……チップはあるが牽制しておこうか。


「………分かっているとは思うけれど、貴女達も私にも勿論、民のために働かないなら――容赦なく斬るわよ」


トンッと人差し指で自分の喉を突くと、真っ青になった2人は慌てて頭を下げた。


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