第383話 ある意味最良です⑩ ―Re side―
「失礼します」
親父に呼ばれて俺は親父の執務室に来た。
俺の姿を見た親父は手を振り、宰相らを執務室から退出させた。
親父は引き出しから手紙を取り出した。
………あれは…
「ランドルフ国からだ」
封蝋は確かにランドルフ国紋。
「処分が決まったのか?」
ソフィアが学園で毒を盛られたと報告が来たときには、親父の殺気が国中に行き渡るかと思った。
それ程親父が怒り狂うのを見たのは初めてだった。
「首謀者、そして実行犯は1月の拷問の上、斬首」
「当然でしょ。1月は短いと思うけれどね」
「我が国から規約干渉になる条件を出したのだ。これ以上は何も言えぬ」
「………そうだね」
ソフィアからラファエル殿の処分に委ねて欲しいと嘆願され、親父は悩み、静観すると言った。
ソフィアの迂闊な行動のせいでもあったから。
けれど望む処分ではなかった場合、ソフィアを帰国させる、という脅しともとれる言葉と、同盟破棄後の同じく脅しの内容を送りつけている。
強制的に処分しろとラファエル殿に命じることと同義。
2国間だからこその交渉という名の脅し。
これが他国となれば、他国に対しての規約干渉となり、サンチェス国の立場がどん底に落ちるだろう。
今回の件では、サンチェス国王族への攻撃により、本来ならサンチェス国が意見出来た。
けれどソフィアの要望でラファエル殿に処分をゆだねたから、脅し条件を出せたに過ぎない。
「で? 家は?」
「爵位剥奪の上、当主も処罰を受けるようだ」
「ふぅん」
「全体の貴族粛清と地位の入れ替えを行うらしい」
「思い切ったね」
あの国の腐敗は、そう簡単に粛清できるとは思わなかったけれど。
「だが…今回の事以上に、チャンスがあるかどうか分からない。タイミング的には良かったのではないか」
「………言われてみれば、そうだね…」
こんな大規模粛清のチャンスを無駄にするはずもない、か。
「これでソフィアの待遇も良くなればいいのだけどね」
「そうしてもらわなければ困る。大事な娘をやったんだ。これ以上、ソフィアを傷つける原因を放っておく愚王子なら、いずれソフィアの操り人形となろう」
「………」
親父はソフィアの能力を過大評価している。
そして、ソフィアの感情を見誤っているのだろう。
けれどそれを正そうとは思わない。
………俺も、ラファエル殿が不甲斐なければ、ソフィアが頭角を現すだろうと思っている。
今はちゃんとやっているようだから、ソフィアも身を委ねているだろう。
ランドルフ国政が変わって、ソフィアが政に顔を出せば…
「これからどうなっていくか、楽しみだね」
俺の言葉に親父の返答はない。
ラファエル殿からの手紙をまた引き出しにしまった。
親父のケースに入れないということは、ラファエル殿の手紙は、機密にならないのか。
………まだまだ親父の評価は低いぞ、ラファエル殿…
ソフィアのパートナーとしては認められているけれど、王の器にはまだまだって事だね。
「下がっていい」
「その前に1つよろしいですか?」
「なんだ」
親父の退出指示に俺は従わず、この機会に提案したいことがあった。
「ソフィアに侍女の件断られましたよね」
「………」
「で、精霊がいてもこのざま」
「………何が言いたい」
親父に睨みつけるように見られた。
おお怖。
「俺の影にソフィアと近い歳の者が何名か。ランドルフ国学園に紛れ込ませようかと」
「………」
俺の言葉に親父の眉が寄り、いつもより厳つい顔に。
「………分かった」
「では5名ほど――」
「だがソフィアの専属にしろ」
話を進めようとして、親父に条件を出された。
俺としてはもっとソフィアの情報を入手するため、俺の手のままにしておきたいんだけど。
「お前、2人を派遣してもお前の手のままだろう。ソフィアの守りを充分に果たせていない」
………痛いところを突いてくる…
イヴとダークは俺の影であり、実際ソフィアに1度拒否されている。
忠誠を誓っていない者の命まで背負えない、と。
「ライトとカゲロウだけでは守り切れぬ。ソフィアは自分より他人を優先するからな」
「………ご尤もで」
「物理的にも手が足りん。5名送り込むなら全員ソフィアの影とし、そしてソフィアの守りを固めろ」
「………御意」
逆らうことが出来ない理由に、俺は了承するしかなった。
影の忠誠は絶対。
だがその忠誠も、王の命令には逆らえない。
所詮、宮仕えなのだから。
………ぁぁ、でも例外が2人いたな。
王の命令に逆らって、自分の主の元へと無許可で出て行った影が。
まぁ唯一の影だったから、親父も黙認しているんだが。
ソフィアが完全にラファエル殿と結婚するという意思を持つまで待て、は出来なかった。
まぁ、ランドルフ国の現状を知らなかったから、結果的に命令無視は良かったんだけどね。
………さて、誰を送り込むか…
ソフィアを気に入っている者でなければ、ソフィアに忠誠を誓えない。
退出し、俺は派遣する5名を選んで呼び出すために、自室へと向かった。




