第316話 ラブレ…いやいや、違うでしょう
昼を食べ終わって教室に戻ったときだった。
次の授業の準備をしようとして、教科書とノートを取り出し、ペラペラと捲っていくと何か紙が挟まっていた。
何も思わず、二つ折りにされたそれを開く。
『ソフィア・サンチェス様
貴女は王太子に騙されています。
このままでは貴女は不幸になります。
即刻、王太子から離れて下さい。
貴女の運命の相手より』
………
………………
………………………怖!!
内容もそうだけれど、差出人にゾッとする。
運命の相手って何…
私、運命って信じてないし。
こうなる運命だった、なんて言葉もいい感情を持った事ない。
何かが起こって、これは必然だったとか、運命だったとかで片付ける人にも。
状況にもよるけれど、そう言って諦めるとかして、自分で何とかしようと努力しないのって、結局逃げだと思う。
まぁ、自分が頑張ってもどうにもならないこともあるのだけれどね…
最初から諦める人って嫌いだし、こういう運命とかの言葉で自分を正当化する人も嫌い。
って、話が逸れてるわ…
「これって、俺に喧嘩売ってるよね」
「っ!!」
危ない。
いきなり耳元で聞こえたラファエルの声に、奇声を発してしまうところだった…
教室でそれはマズい。
ってか、いつの間に後ろに回ったの…
さっきまで私の隣の席に座って、準備してたよね…?
私が固まったのが分かったのだろうか…
「俺のソフィアを奪おうとしているよね、これ」
あ、そっちなんだ…
騙していると主張する理由とか気にならないの…?
………って、これってある意味ラブレター……なのかな?
生まれて初めて(前世も含めて)貰うものに、今更だけれどちょっと緊張する。
………ないか。
私にラブレターなんてないない。
「騙されているとは、どういう事でしょう…」
「さぁね。取りあえずソフィア。俺から離れないようにして」
「え……」
腰を抱かれ、耳元で囁かれる。
「いくら精霊がいるとは言っても、用心に超したことはないよ」
「わ、分かりました…」
ラファエルの顔が怖い…
怒っている…
………ってか、近い!!
人前で近いですラファエルさん!!
クラスメイトの視線が気になるんですが!!
焦っている顔は出来ないから、困るんだけど!!
「………見覚えない字だな…」
………ラファエルの頭の中には見たことのある生徒の字が、全て入っているのだろうか…
「男とは限らないよね」
「え……」
「男に見せかけて、ソフィアが邪魔だと思っている女かもしれないし」
「………この字で?」
「………わざとかもだし…」
実はこの手紙、読めるのは読めるのだけれど、お世辞でも字が綺麗だとは言えない…
とても女が書いたとは思えないような…
ラファエルの字は私より綺麗だから、今まで気にしてなかったけど…
男って、こんな………達筆で解読に時間がかかる文字の人多いよね。
「………ったく。人に読ませるならこんな汚い字を書くなよ」
………あ、言っちゃった…
あえてオブラートに包んだ言い方を選んでいた私の時間が無駄に…
「絶対に部下には欲しくない字だな」
………確かに、書類仕事は頼みたくないよね…
「ソフィア、絶対に1人にはならないでよ。ソフィアに触れていいのは――」
「ラファエル様だけですものね」
いい加減に耳元で話すのは止めて欲しい。
ほんと、距離が近すぎて恥ずかしいんだって…
内容は聞かれたらマズいからって…
でも、突き放せないし。
だから私はニッコリ笑ってラファエルより先に言った。
分かっているから、離れて欲しいという意味も込めて。
ラファエルは満足したのか、ソッと離れて自分の席に座った。
………はぁ……よかった…
取りあえず手紙はラファエルが回収し、私は教科書を改めて開いた。
他には何も挟まっていなかったため、手紙の件は王宮に帰ってからにしようと私は手紙の件は頭から消して、授業に集中した。




