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第266話 お出かけ! …いえ、視察です…⑤




「ソフィア、お待たせ!」

「お話は終わったのですか?」

「うん。飼育小屋の位置と柵の位置を決めたから、後は着手するだけだよ」


ラファエルはそう言って私の隣に立った。

あ、ここには椅子が3脚しかないから…

慌てて立とうとすれば、ラファエルが私の肩に手を乗せたため、立てなくなった。


「ソフィアは座ってていいよ」

「ですが…」

「ソフィアがお茶を飲んだら出発するから」

「え……!」


驚いたのは私じゃない。

マーガレットだった。

でも、ラファエルに声はかけられない。

戸惑ったように私を見てくる。

………マーガレットは私と話したいことがまだあるのだろうか…

いつから話していなかっただろう。

だからこんなに戸惑うのかもしれない。

だから話題に困るのかもしれない。

それ程親しいとは言えない私達だから…

マーガレットは私と親しくなりたかったのだろう。

だから何度も面会を希望してくれていた。

なのに私は会わなかった。

王女として当然と言われても、ただのソフィアとして親しくなりたかったのなら会うべきだった。

会わない方を選んだ私は、ラファエルの指示に従うと言った私は、彼女の友人になる資格はないだろう。


「分かりましたわ」


私はラファエルにそう返した。

その言葉にマーガレットが息を飲み、そして悲しそうに目を伏せた。

………ごめん、なさい…

民のことを考えろと言った私が、1人の女の子に向き合うことさえ出来なくて…

なんて情けない女なのだろう…

………だから…


「ですが、せっかくこんな素敵な場所に来たんですもの。もう少し時間をいただけませんこと?」


言葉が足りなくて、ラファエルとすれ違っていた頃から日は浅い。

言葉を伝えていなくて傷つけた。

それを繰り返していたら、私は王女ですらなくなるかもしれない。

民の上にいる私が…民を導く王族の1人の私が、言葉が上手く伝えられなくていいのだろうか。

私の言葉にマーガレットがハッと、少し嬉しそうに私を見た。


「いいけど…この後の行程もあるし……じゃあ、もう1杯だけだよ?」

「ありがとうございます」

「お礼はいいよ。この後の行程はソフィアには少し退屈かもしれないし」


苦笑するラファエルに首を傾げる。


「退屈、ですか?」

「そ。ガルシア公爵領の主道整備状況確認、街の確認、立地の確認とかだから、馬車に乗ってるだけだし」

「それの何処が退屈なのですか! 大事なことではありませんか!!」

「大事だよ? 俺にとってはね。でもソフィアが必ず知っておくことではないからね」

「知っておくことですわ! わたくしが知っておかなければ、ラファエル様の力になり得ないではないですか!! 次のアイデアに役立つかもしれませんでしょ!?」


いくら王女の私の分野ではないとはいえ、ランドルフ国のことで知っておかなくていいことなど、何1つないはずだ。


「それはそうだけど、ソフィアは無理に知識を持たなくても、疑問があれば聞いてくれれば説明するし」

「言葉だけの説明と、実際に目にすることと、どちらがより鮮明に理解できると思っているのですか!」

「ソフィアは真面目すぎるよ。ランドルフ国の事を想ってくれてるのは嬉しいけど、気負いすぎもダメだからね」


ラファエルはそう言って私の頭に1つ口づけを落としてきた。


「俺もちょっと息抜きするかな」

「ラファエル殿、俺もちょっと歩いてくるよ」

「分かった」


2人はまた離れていった。

それを見て、私は息をつく。


「………まったく……ラファエル様は働き過ぎですし、わたくしよりむしろラファエル様が気負わないようにしなければなりませんのに…」

「それだけラファエル様は、この国を大切にして下さっている証拠ですわ。それに、ソフィア様も…」


マーガレットに言われ、私は彼女を見た。


「ソフィア様、再度無作法をお許しください」

「………何でしょう」

「ソフィア様がわたくしとスティーヴンにお会いして下さらなかったのは、精霊契約解除の通達が出されたからでしょうか? わたくし達が、ラファエル様とソフィア様を恨んでいるとお思いなのでしょうか? ですから…」

「思い上がりですね」

「っ……!」


確かに、ソフィアとしてはそうだ。

でも、私は王女だから。

だから今の質問の答えには私自身の感情は関係ない。


「わたくしは、ラファエル様が良いと思った政策を聞き、同意しました。それは、他国と同じ精霊契約となると知ったからです。誰でも契約可能なことが危険な事だと身をもって知りましたから。わたくしはともかく、ラファエル様がそのせいで命を落とすことは許されないのですから」

「………はい」

「わたくしがマーガレット嬢とスティーヴン殿にお会い出来なかったのは、この身が予想以上に危険に晒されていることと、ラファエル様がわたくしの身を案じて下さることからですわ。今は落ち着きましたから、こうしてここまで出てこられましたし、学園にもラファエル様と同じ時に復帰する予定です」

「そうですか」


心底ホッとするマーガレットを見て、私は少し視線を下げた。


「それにお兄様は過保護ですの。わたくしが無理していると言って、謁見は控えるようにと言われていたのです」

「そうだったのですね」

「ソフィア様は女性ですから、必要以上に心配してしまうのは仕方がないのではありませんか? 私もマーガレットが傷ついたり倒れたりすれば、ベッドから出ないように言いますし…」

「スティーヴン…」


マーガレットとスティーヴンが見つめ合う。

………あのぉ…

ここで甘い雰囲気にならないで欲しいんだけれど…

と、思いつつも、2人が前みたいに仲良いのが分かってホッとする。

変わらない2人の態度が嬉しく思う。

一方的に切り離した私と、変わらず話したいと思ってくれていたことに感謝する。

そんな事を思いながら、私は煎れ直されていたお茶を一気に飲み干して、席を立ったのだった。


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