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第229話 思いとは裏腹に⑩




「お待ち下さい」


私は今、ラファエルの執務室の前にいる。

そして見張り番として立っていた騎士2人が持っていた槍で、執務室の扉をロックするかのようにクロスした。

彼らに見覚えがなんとなくある。

あの訓練場で上位5名には入れなかったけれど、6位と7位になった者達だったはず。

名前は知らないけれど。

サンチェス国の兵士から騎士になってくれた人達だ。


「………どいて」

「どきません。ラファエル様に事前に面会許可を与えられている人しか、お通しできない決まりとなっております」

「いくらソフィア様でもお通しできません」

「ならラファエルに聞いてきて」

「不可能です。ルイス様を通してラファエル様に許可を貰ってください」


………サンチェス国から来てくれた人は私を慕っていたんじゃなかったの!?

だったらちょっとは融通きかせなさいよ!

すっかりラファエル側じゃない!!

ラファエルの騎士だから当然だけども!!


「………あ、そ。じゃあいい! ラファエル!!」

「ちょっ!?」

「聞こえてるんでしょ! 話があるから開けて!!」


騎士達は私の行動に固まってしまった。


「姫! はしたないです!」

「だって通さないって言うんだから、ここで呼ぶしかないでしょ!」

「令嬢としてどうなんです!?」

「令嬢と思ってないくせに、こんな時に引き合いに出さないで!」


ライトが腕を掴むけれど振りほどく。


「ラファエル! ちょっとぐらい時間はあるんでしょ!? いつもお茶しに来てくれる時間帯だもの! お茶を飲むぐらいの休憩は入れてるんでしょ!? だったら私と話す時間も取れるわよね!」

「うわ、我が儘令嬢の言葉ですよ姫」

「いいの! 私は今我が儘令嬢なの! だってラファエルが私に自由にしていいって言ったんだもの! 私の自由時間を奪える人はいないわ!」

「………ぁ~……」

「行きたいところに行けって言ったのもラファエルだもん!」

「………街への外出許可じゃなかったですか…?」


ライトの突っ込みは無視する。

様子を見たけれど、扉が開く気配はない。

………近づいてくる気配もない。

………こうなったら……


「私に会いたくないならハッキリ言ってよ! 言わないなら一晩中でもここに居座るからね!!」

「ちょ、姫!?」


私は執務室の正面に当たる壁まで歩き、そこに座り込んだ。


「令嬢が座り込まないでくださいはしたない!!」

「だから都合の良いときだけ令嬢にしないで!!」


ギャーギャー言ってる私達を騎士はどうすることも出来ず、顔を見合わせて困った顔をする。

私は王女だもん。

手荒な真似は出来ないわよね!

その時、静かに執務室の扉が開いた。


「………流石に王女が地ベタに座らないで…」


ちょっと呆れた顔のラファエルが出てきた。

私はぱぁっと笑顔になってラファエルに走り寄る。

それでも騎士は槍を下ろさない。

私とラファエルとの間には槍2本の壁。

でも、いい。

ラファエルの顔が漸く真正面から見られたから。


「ラファエル、私の話を聞いて」

「………」

「お茶の時間がないなんて言わないでね。それなら私はまず全力でラファエルを休ませることになるから」

「………」

「それは困るでしょ? だって私と会える時間もないぐらい仕事溜まってるんだものね」

「………はぁ…」


一気に捲し立てると、ラファエルが深い息を吐いた。

そしてすいっと手を払う動作をすると、2本の槍が視界から消える。

ラファエルが許可を出したのだ。

ということは、私と話す時間を取って――


「………ライト」

「はい」

「………ぇ…」

「ソフィアをちゃんと見てて欲しいんだけど?」

「………申し訳ございません」

「は!?」


二人のやり取りに、私は唖然とする。

ラファエルは時間を取ってくれるんじゃないの…?


「送るよソフィア。ちゃんとサンチェス国王達の案内を…」

「断られたわよ!」

「………ぇ?」

「お兄様が案内するから、お父様と2人して自由にしていいって言われたもの!! だから行きたい場所に来たんだよ!」


どうして…

どうして話してくれないの!

どうして私の話、ちゃんと聞いてくれないの!?


「………ソフィア…君はもしかして、私と夫婦になる気はないの?」

「………な、に……?」


………“私”……?

それに、どうして夫婦なんて言葉が…?


「来賓客を案内するのは王族の義務でしょ。私が断られたのだから、君が案内することになるでしょ」

「………ぁ…」

「社交はむしろ君の仕事になるんじゃないの? 他国の姫達の案内をするのは君の仕事。その練習相手として気兼ねなく接する事が出来るサンチェス国王達は適任でしょ。その練習もしないなら、君は私との婚約を解消するつもり、という意味にとっていいの…?」

「ち、違う!! ごめんなさい! 私っ!」

「………うん、私もちょっと意地悪言ったね。ごめん。自由にしていいと言ったのは私だ。だから、気にしなくていいよ」


わ、私……また失敗した…

いくら許可が出たといっても、身内だからといっても、来国者には変わりない。

私はお父様の案内をして、それが終わって王宮に帰ってきた後にラファエルに会いに来るのが正解だったんだ…

そしてその“報告”をする時に、自然とラファエルとの時間が……取れた……

報告を聞くためになら必然的にラファエルは時間を取ってくれた…

それが夕食前なら自然とその分も会話する時間があった…

勢い任せで…行き当たりばったりで…本当に、私ダメだ…


「気にしなくていいよ。私も一言言えば良かった話だ。察して欲しいはずっと失敗していたのに、学習してなくてごめんね。ちゃんと次からは言うよ」


………これも、違う。

ラファエルのせいじゃない。

私が“王女として”の気持ちが少しでもあれば気づけた事態。

これは、私のミスだ。


「いえ、申し訳ございません。わたくしのミスです。ラファエル様の責任ではございません」


………私は、ラファエルの顔に泥を塗ったんだ…

私は深く頭を下げた。

お父様とお兄様に許可を出された時、私の仕事だからと案内するべきだった。


「気にしなくていいと言ったよ。次気をつけてくれればいいだけだから」

「………はい」


恥ずかしい…

恥ずかしい恥ずかしい!!

私、本当にサンチェス国に行ってから甘えすぎてる。

羽目を外して、自由にしていた結果がこれ。

私は未だに遊び気分でいたんだ…

ラファエルの事は勿論、ランドルフ国のことも考えないといけない立場で…

本当にラファエルを想うなら、話したい反面、きちんとラファエルの代わりに務めなきゃいけなかった。

ラファエルはそんな私も責めない。

サンチェス国に居たときも、ここに帰ってきてからも……

絶対に私を咎めたりしなかった。

本当に、恥ずかしい。

ラファエルに甘えてばっかりの自分が。

そしてそんなラファエルに、何の想いも告げていないことが…

すごく、後ろめたい。


「………叫んで喉が渇いたでしょ。一緒にお茶を飲もうか」


ハッとラファエルを見ると、微笑んで私を見ていた。

………ぁぁ…

やっと見れた…

どうしてそんなにラファエルは優しいのだろう…

ソッと差し出された手に私は自分のを乗せ、初めてラファエルの執務室へと招き入れられた。


あ、あれ…書いているうちにソフィアが暴走してしまった…

次こそは思いのすれ違いが無くなる!(……ハズ)

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