第218話 念願の甘味が出来ました
宿に着いて、早速人間が口にして大丈夫な牛乳と卵かどうか検査をした。
調べ方はランドルフ国製の検査機がある。
けれどそれはランドルフ国とサンチェス国の王宮にしかない。
調べに行ってもらう時間はない。
どうしようかと考えていたときに、ソフィーが提案してくれた。
精霊なら何を口にしても影響はない、と。
そして精霊の味覚はほぼ人間と酷似し、人間に害が及ぶかどうかも分かるそうだ。
これ幸いと、牛乳と卵を食してもらった。
そして私の味覚を共有している(身体は元同一人物)ソフィーは適任だった。
私が前世で飲んだり食べたりしていた味も知っているらしい。
共有しているのは知識だけじゃなかったのね。
ソフィーが考えながら食しているのを固唾を呑んで見守っていると、飲み込んで暫く何かを待って、それから頷いた。
笑顔で。
「やったー!!」
思わず両手を上げて喜ぶ私に、ソフィーが微笑ましいものを見るような温かい目を向けてくる。
でもそんなのは関係ない!!
「ソフィー!」
「はい?」
「プリン作ろー!!」
「いいですね」
「「プリン…?」」
ソフィーの両手を掴んで言うと、ソフィーは頷いてくれる。
ラファエルとお兄様は首を傾げる。
「ラファエル、糖ちょうだい!」
ソフィーの手を離して、今度はラファエルに両手を伸ばして首を傾げる。
「………可愛いな……閉じ込めてしまおうか…」
………あの……ラファエルさん聞こえてます…
閉じ込めないでください…
そう思っていると、ラファエルが口を押さえて顔を反らした。
「…… ……」
「………? ラファエル何か言った?」
「いや? 何も言ってないよ」
何かラファエルが呟いたようだったけど、聞こえなかった。
………気のせいかな。
ラファエルも何も言ってないって言うし。
………まぁいいか。
「私は調理道具借りてきますね」
ソフィーが部屋から出て行った。
「………」
ラファエルが何か考え込んでる…?
無言になってしまったラファエルを見上げると、ハッとしたように私を見て笑いかけてくる。
「どうしたの?」
「あ、ううん…何でもない」
どうしたんだろう?
そう思っても私は聞かなかった。
この時に何故強引にでも聞いておかなかったのだろうか、と後から後悔する事になるとは、私は全く気付きもしなかった。
「力仕事?」
「そんな事はないけど、混ぜるのに少し時間がいるかな」
「じゃあ俺やる」
ラファエルが腕を曲げて袖を折っていく。
う……!
な、何気ない仕草だったのに、ラファエルが袖をまくり上げるのを見るのは初めてで、格好よくてドキドキした。
くそぉ……イケメンめ!!
腕は引き締まっていて、私は毎回この腕に抱かれて寝ているのかと思ったら最後、心臓が静まってくれそうになかった。
ちなみに私の護衛4人はラファエルに先を越されて、口を挟むタイミングを逃していた。
王太子にやらせるのは、と思っただろうけれど、甘味はラファエル担当だからいいんじゃないかと、私も何も言わなかった。
「? ソフィア顔赤くない?」
「き、気のせいだよ」
「………そう? 熱があるとか言わない?」
「言わないよ。元気」
「ならいいけど…」
ラファエルに少々不審な目を向けられてしまった。
………ラファエルのせいだもん。
「姫様、借りてきました」
「ありがとう」
「ソフィアは指示だけして。俺がやった方が良いし」
「………だね」
勢い込んでたけど、私は不器用だったわ…
大人しく待ってます。
「まず糖を砕いて……うん。このボウルに牛乳と卵と糖を入れて……っと。ラファエルよく混ぜて」
私は目分量で牛乳と糖を入れ、卵を割った。
卵が大きいから牛乳と糖はそれに合わせないとね。
くるくると混ぜるラファエルの腕に、どうしても視線が向かっちゃうから僅かに視線をずらす。
ちなみに糖は日本の砂糖に似た甘さがあるけれど、粒が大きく氷砂糖の様な物で大きさもそれぐらい。
だから最初に砕いた。
火精霊に溶かしてもらっても良かったかな。
「姫様、いい感じではないですか?」
「………うん。もういいよラファエル」
「思ったより時間かからなかったね」
「ラファエルだからじゃない…? 結構大きいボウルだし人数分作るから多めに材料入れたし…」
「ふぅん」
糖の粒があるし、それが溶け込むまで時間かかると思っていたけれど、案外早かった。
「じゃあ次はカップに……」
私はカップを取り、糖と水を入れる。
カップは勿論人数分。
そして火精霊にそれを暖めてもらった。
じーっと固まり具合を見ていると、他の皆も覗き込んできて実にシュールな光景に…
「ちょっと一旦止めて火精霊」
熱するのを中断してもらい、私はスプーンでツンツンとつついてみた。
微妙に固まっているのを見て、少しかき混ぜて上に上げてみる。
するとトロリとしたいい感じのカラメルソースが出来ていた。
思わずソフィーと顔を見合わせ笑い合う。
「よし。次は…」
「ザルはこれしかなかったのですが…」
「いいんじゃない? 目が細かいけど、大きいよりはいいと思う」
「はい」
ソフィーがカップの上にザルを置く。
「ラファエル、この上から混ぜてもらった生地入れてもらって良い?」
「うん」
カップよりザルの方が大きいので、ラファエルがスプーンで流し込んでいく。
生地はやっぱり多すぎたようで、更に人数分作れそうだった。
卵が大きすぎたからなぁ…
明日の分で、後でまた作ろうと思った。
「出来たよソフィア」
「ありがとう。火精霊、また加熱して」
火精霊に熱してもらい、また皆で覗き込んでいるというシュールな絵が出来たけれども、いい感じに出来たところで今度は氷精霊に冷やしてもらった。
「出来たー!!」
「本当ですね」
最後にソフィーに机にお皿を並べてもらって、カップを逆さにしてプリンを出せば、ちゃんと上にカラメルソースが乗った見慣れたプリンが完成していた。
ソフィーと手を取り合い、笑い合う。
「これがプリンっていうの?」
「そう! 食べてみよ」
皆がスプーンを手にしてパクッと一口。
「美味しいです姫様」
「懐かしい味ー!」
ソフィーと笑い合い、プリンを堪能する。
当然日本のプリンには到底及ばないのだけれど、このぷるぷるした食感は本当に懐かしく、じんわりと嬉しさが広がる。
「へぇ、美味しいね。俺の作った甘味の中の上位になるよこれ」
「不思議な食感だけど、美味しいよ」
ラファエルとお兄様も笑ってくれる。
従者達も食し、それぞれ美味しいと言ってくれる。
やっぱり牛乳も卵も、食用に使われないから味は断然落ちるけど、これから研究できれば日本の味に近づけるんじゃないかな。
私はその時が楽しみだと思いながら、プリンをまた頬張った。




