第215話 地盤は早く固めよう
翌朝目を覚ましたとき、私はまだ寝ていたラファエルを置き去りに部屋を出た。
「うぅ……」
寝る前までの私は一体何をしていた。
羞恥心に悶えそうになり、ラファエルが起きるまであそこにいられる自信はない。
だから出てきたのだけれど…
「あ、あの…そ、ソフィー殿……お、おはよう、ございます…」
「お、おはよう…ござい、ます」
廊下で顔を真っ赤にしながら朝の挨拶を交わす、できたてホヤホヤ従者カップルと遭遇しちゃった!!
「あ、姫様おはようございます」
「ソフィア様、おはようございます」
………うん。
主の前では瞬時に切り替えられる君達を尊敬するよ。
でもね?
さっきまでの真っ赤な顔は何処に消えた!?
恥ずかしそうにモジモジしていたのは!?
何故瞬時にいつも通りの立ち姿になれるのか教えて欲しいわ…
「おはよう」
「本日のご朝食はどちらでお召し上がりになりますか?」
「食堂でいいんじゃない? ソフィーとヒューバートもゆっくり(イチャイチャ)したいでしょ?」
「いえ、特には」
「そうですね。することもないですし」
………こいつらホントにできたてホヤホヤのカップルなの!?
特にヒューバート!!
もっとソフィーに対して積極的に行けよ!!
デートいっぱいしろよ!!
「本日は最後に泊まられる街へ移動になりますから、ソフィア様ももう少しお休みになられては?」
「そうですね姫様の食事は部屋に運びます」
………連携は…申し分なさそうなんだけどな…
でもそれが仕事でだけっていうのは、悲しいものがあると思うんだけど…
「………そうしたいのだけれどね?」
「はい?」
「ちょっと王都に文を出さなきゃいけないし、手続きも時間がかかるから今から動かないといけないのよ」
「手続きですか?」
「王家に養子縁組の話を持ってかないとでしょ」
「「?」」
あ、二人して首を傾げている。
もしかしてそれは考えていないのだろうか?
「だってソフィーの戸籍ちゃんと作らないと、ヒューバートと婚約できないわよ?」
「ごほっ!!」
ヒューバートがむせた。
ソフィーは顔を真っ赤にして固まった。
うんうん。
分かってくれたかな?
「ヒューバートは騎士とはいえ公爵家の出自だからやっぱり王家の名前じゃないと」
「そ、ソフィア様、ちょっとだま――」
「ソフィーはサンチェス国の貴族以上の階級だからこそ、私の侍女をやっているって思われているし、やっぱり階級が上の方が反対意見ないと思うのよね」
「ひ、姫様っ!!」
「まぁ反対なんてさせないけれども、旧国派が邪魔してきても大丈夫なように地盤を固めておかなきゃだし」
ペラペラと2人の遮り無視して喋っていたら、ヒューバートが沈没、ソフィーは顔を覆って崩れ落ちた。
「ちゃんと婚約の書類作って、国の許可もらった正式な婚約者として付き合いをなさい」
「………姫様…?」
「ソフィーはこの地で生きているのよ。精霊だからってあやふやにしたら許さないわよ」
「………」
「顔は瓜二つなのだから貴族に話をつけるより、実は双子でしたということでサンチェスの名を貰った方が色々都合いいだろうし。ソフィーを私の妹としてしまおうと」
「姫様…」
ソフィーにキラキラした目で見られる。
………これは多分あれだな…
ヒューバートとの云々に感謝しているのではなく、私の妹として生きられることの嬉しさでの表情だろう…
なんだかなぁ…
頑張れヒューバート。
君はソフィーの中の優先順位がまだ私より低いと思われるよ。
「………というわけでヒューバート、その辺ハッキリさせないと私の妹は嫁がせないわよ」
ハッとして顔を上げるヒューバート。
「ソフィーをちゃんと幸せにするための土台を作らない人になんか、私の大事な子をあげるわけないでしょうに。ちゃんとしっかり計画立てなさいよ。やることがない? やることは山ほどあるでしょうが」
「っ…! す、すみません!!」
「分かったのならさっさと紙とペン用意してちょうだい。ちゃんと王家に出せるような物を用意してよね。早馬も用意してよ? サンチェス国で大っぴらに精霊にお使い頼めないんだから」
「「畏まりました!」」
ソフィーとヒューバートが慌てて、けれど走ることなく去って行く。
「………まったく……2人して気持ちに振り回されてるわね……仕事してるときと大違いで心配だわ…」
「俺も心配だよ。婚約者がサンチェス国ではいつも姿を消すから」
「ひぃ!?」
突如耳元で囁かれ、私は飛び上がった。
慌てて振り向く前に背後から手を回されて固定される。
「お、おはようラファエル…」
「おはよう。ソフィアこの俺を置いて従者とイチャイチャ? 妬けるね」
「い、イチャイチャなんてしてないわよ!」
「いいや、俺を放っておくぐらい従者の方を気にしているだろう?」
あ、そういう…
私は今後、ラファエルを置いて寝室を出ないようにしようと思った…
後で面倒なことになりそうだから…
「も、もう用事済んだし、部屋行こう…?」
「………済んだの?」
「用意して欲しいものを伝えたから」
「そう。じゃ、部屋戻ろう」
ひょいっと抱えられて私は数分前に出た部屋に戻ることとなった。
「ああ、俺も一筆書くよ」
「え?」
「ソフィーの事。俺からも頼んだ方が早いだろうし」
………何処から聞いていたのか…
私は苦笑しながらラファエルの肩に頭を預けた。




